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ウイはすまなそうに言うと、それを首から外しトワの前に下げた。
「返すよ、大事なものだろ」
しかし、トワは受け取らない。
「それはあんたにやったものだ。一晩世話になったけど、交通費くらいしか持ってなかったから」
「や、世話になったっていうけど、単にベッド貸して、ちょっとだけ話を聞いてやっただけだし。サイズ合わないからルームウェアも貸せなかったし」
トワは着ていた服に酒を浴びていた。そのまま寝かせるわけにはいかず、トランクス以外は裸だった。タトゥーはその時に見たものだった。
「ま、酒臭い服は洗濯してやったけど……もともと金だって受け取るつもりもなかった」
(なのに、何故、受け取ったのか?……たぶん、あの時のあの少年と何かしらの繋がりがほしかったからなのかもしれない)
ウイは改めてそう思った。そして、メンバーとして一緒に活動している今、もうこれは必要ないものなのだ。
目の前にぶら下がっているネックレスをトワは手にした。
(これであの日の自分に決着が……)
などと考えているウイにトワが近づいた。頬と頬がくっつくくらいに密着して、首に手を回す。
(んん?)
どきどきしたが、それは単にネックレスを首にかけるためだけの行動だった。
「これはやっぱりあんたが持っていてくれよ」
ウイの胸でジルコニアが光る。
「え? なんで」
「別に母親の形見とか大事って思って持ってたわけじゃない。バンド始めて何か自分を飾るものがほしくなったんだ。ベース買ったりタトゥー入れたりしたら金なくなったし、母親のものが置いてあるところから、ちょいっと」
右手の親指と人差し指で円を作り、何かを引っ張るような仕草をする。
「ドロボーじゃん」
ははっと笑う。
「……そうとも言う。今の俺には似合わないだろ……まぁ、BLACK ALICEのウイに合うとも思わないが」
「そんなことも、ないけど」
身体をもじもじさせる。
「だってオレ可愛いし、似合うと思う」
おどけてぺろっと舌を出す。それから、上目遣いにトワを見る。
「じゃあ、これ、貰っとく。大事にする。今度は見えるようにつけておくから」
はにかむように頬を赤らめ、大事そうに指先でペンダントトップを押さえた。
突然、ぶはっとトワが噴きだした。それから大声で笑いだす。
ウイは目を白黒させた。こんなに大笑いしているトワを初めて見た。
「え? なに? どうしたの?」
一頻り笑ってもまだ笑い足りず、顔に笑みを浮かべながら、
「あんたって、ほんと、可愛いな」
そんなことを言って、ウイの頬にちゅっとキスをした。
「え……」
(ええーーーっっ)
さっきまで演技練習と、熱に浮かされてのキスとも違う。なんだか自分を愛おしいと思ってくれていると勘違いしそうなキスだ。
さらに頬が熱くなり、頬を手で押さえた。
「な、なんか、物語と同じ展開だなー」
自分の動揺を誤魔化した。
『黒薔薇の世界』でもウイはトワにネックレスを返そうするが、トワは「あんたに持っていてほしい」ともう一度ウイの手に握りこませる。しかし、ウイが無残な最期を遂げた時ユエに依って奪われていた。トワはそれを取り返しに行き、そして、また彼も――。
「オレたち死なないよなー」
動揺はまだ続き、まったくそのことには触れないようにしている。
そんな分かりすぎるほど分かるウイの心情に、トワはくくっとまた笑いがこみ上げてくる。
「なぁ……ウイ、あの時の俺は何を話した? あとはどこが真実なんだ?」
トワに穏やかな目を向けられる。まるでさっき『結』を語っている時のように。
「……そんなにたいしたことは話してないよ。海辺で歌っている『結』に会うために来たとか、いつ来てもいるのに今日はいなかったとか。もう、会える気がしなくなったとか、すごく悲しそうだった……」
ウイは少し間を空けた。その『結』が姿を消した原因の一端は自分にあることをちゃんと言うべきだと考えた。
(トワは怒るかな……)
「シナリオにもあったようにあの日の昼間ライブハウスに、ソウとハクトさんが『結』を知らないかと尋ねにきた。オレは二人に『海辺の結』のことを教えた。トワの悲しみの原因の一端がオレにあるんだと、胸が痛んだよ」
「そうか……でも、ウイのせいじゃない」
想像した言葉は返ってこなかった。トワにとってそこはもう本当に過去になったのだと感じた。
「……うん」
過去を語る二人の声は穏やかだ。
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