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「オレ、トワのことあの日の前から知ってた、オレもよく『結』の歌を聞きに行ってたから。たまに見かける男がライブハウスに来たから驚いたよ」 「そうなのか」  やや驚きを滲ませている。内心はもう少し驚いているかもしれない。 「これは小説にもなかった設定だけど。その男は背が高くて強面で、とても十代には見えなかったな。まさか、アルコール飲んで潰れるとは」  トワの顔を見てにやにや笑う。 「俺の年齢(とし)知ってたのか」 「うん。あの時オレが訊いた。十七だって聞いて驚いた! でも、そんな強面のトワが穏やかな表情で『結』の歌を聴いてるんだ……すごく好きなんだろうなって思った。メンバーで一緒に活動するトワはいつも無表情で、あの時の顔は幻かと思ったよ」  そのことについてトワは何も答えなかった。 「あの話も本当なのか?」 「何? まだなんかある?」 「『ウイ』が俺のことをずっと」  ウイはその先の言葉にピンときて、突然「わぁ〜」と叫びだす。 「ずっと、す……」  それに構わずトワが続きを言おうとするところでウイは言葉を被せる。 「そうだよ! あの時から、や、海辺で見かけた時から、なぜかおまえのこと気になってた! だから何か繋がりがほしくてネックレスも受け取ったし、ソウがベースかギターを探しているって聞いておまえのことも話した」 「え?」 「あ」  口が滑ってしまった。 「突然俺のところにソウが来たのは……」 「うん……」  テンションがだだ下がる。そこまで言っておいて口籠る。 「俺……あんたに音楽やってるって言ったんだ?」 「うん。トワたん、オレのギター絶賛してくれてて……」  観念してぼそぼそっと、話しだした。 「めちゃ眠そうだったし、もしかしたら本人に向かって言ってるとは思ってなかったのかもしれないけど。あまり細かいこと褒めるから、楽器やってるのか? って訊いたら、ベース弾いててバンドがうまくいってないことも話してくれて……」  チッとトワの舌打ちが聞こえた。 「情けねぇ、俺何言ってんだ」 「や、しょうがないよ。初めてお酒飲んだんだから、そういう状態になったとしても。それに、アレはこっちの監督不行届で下手したら、これよ」  古めかしいジェスチャーだが、両手首をくっつけて、逮捕を示唆した。 「しかし、俺のことよく探したな、バンド名まで言ってたのか? いや、そんなことないか、あの時のバンドはあの後解散したし……」 「いや〜そこは本当にソウの人脈やらSAKUプロ様のお力ですね〜」  テンション高めに答えるが実はかなりヤケ。照れ隠しだ。 「オレもトワがまだ楽器やってるとかバンド組んでるとか、実際分からないし、やってるとしてもソウのおメガネにかかるほどの腕なのかも分からなかった。ただ年齢(とし)は十九くらい。名前は永遠(えいえん)と書いて『トワ』。長身で細身、ギターかベースをやっていて、たぶん東京近辺に住んでいる――くらいな情報を与えただけ。それで探してくるんだもんなー」 「すげーな」  感動した様子もなくぼそっと言うが、たぶん驚いてはいるのだろう。 「……ほんとに見つけてくるとは思わなかった。もし、見つけられなかったら、それまでだと思ってたし」  少し声の調子を落としたウイの横顔は少しさみしげだった。 「ふぅん、そうなんだ」 「え?」  世にも意地悪そうな声がして顔を上げると世にも意地悪そうな顔がそこにあった。 「ウイは俺に会えなくてもよかったんだな」  その意地悪そうな顔はわざと作っているものだとすぐ分かる。 (なになに? なんかさっきからずっとトワの様子が。まるでオレのこと好きみたいに。いや、ないない) 「ほんとに俺のこと好きなのか?」 「だからやめろって」  本人に確認されてこれほど恥ずかしいことはない。 「シナリオにあったみたいに、あの時俺に手を出そうとした? 好みだからとか」 「いやいや、それはないよ」  ウイは自分の目の前で軽く手を振った。 「確かに気にはなっていたけど。その気になっている男がどうしてか自分の部屋にいたけど。でもあの段階では本当に気になってたくらいで、手を出すとか、抱かれたいとかそこまでは……」 (あれ? そこまでは言ってない? もう、いいやっ) 「ふぅん、じゃあ今は?」  顎を取られて上向かされる。 「言わせるなよ」  睨むみたいにトワを見つめる。表情はきついのに顔は真っ赤だ。 (トワがメンバーに加わって四年。気になる男は――好きな男に変わったさ)  実際演らせてみたらベースはめちゃくちゃ上手かった。音楽への姿勢、ストイックさ、あの無表情。ユエ以外の他人に対する冷たさは、切なくもあるがツボでもあった。どうにか自分を視界に入れさせてみたいと思うような。 (まあ、実際顔は好みだったけど)  トワに本気で恋するのに時間はかからなかった。 「万に一つ賭けだった。ソウが見事に見つけてくれて、メンバーになった。運命かと思ったよ――まあ、それは都合よすぎる考えだったけど。おまえの本当の運命の相手はユエだもんな」  トワは答えなかった。 「あの日、オレたちBLACK ALICEの四人は皆あの海辺の町にいた――運命だよな、なんて台詞と同じこと言っちゃった」  ぺろっと舌を出す。 「やっぱりオレたち死んじゃうんじゃなーい?」 「ばーか」  少し甘かった空気は散っていつもの二人に戻った。    

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