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クリスがトワから貰った餌を食べている横で、二人も食事を始めた。
ローテーブルを挟んで向かい合っている。
ウイはサンドウィッチを一袋食べるとペットボトルのジャスミンティーを飲んだ。彼の食事はこれで終了だった。満腹というよりは胸がいっぱいで、おにぎりのほうは入らない。
目の前にはお弁当、追加でおにぎりをガツガツ食べている男。ローテーブルの上には小さめのカップ麺も用意されている。
ウイはそんなトワを眺めたり、部屋の中を物珍しげにぐるりと見回したりして、食べ終わるのを待っている。
「クリス、おいでー」
餌を食べ終えたクリスが少し離れたところで様子を窺っている。ウイはフローリングを擦るように左右に揺らしながら呼んでみる。その手を目で追ってはいるが近づいては来ない。
(うーん。すぐにはムリかな)
「ごちそうさま」
クリスに構っている間にトワはすべて平らげた。
顔の前で手を合わせてから、腹をさする。腹いっぱいを示しているのだろうか。
ウイはくすっと笑った。
「なに?」
「そんなふうにガツガツ食べるトワを見るの、初めてだな〜と思って」
ひと月一緒のホテルで過ごした。食事時間は特に決まっておらず皆空いた時間に取っていた。そんな感じだったのでトワと遭遇することはそれほどなかった。偶然一緒になってもこんなふうに食べていたという記憶はない。
「自分ちだからだろ」
(リラックスしてるってことか)
自分もその一部にしてもらえているのでは? と思うと少し嬉しかった。
「あ、ねぇねぇ、トワ。ギターも持ってるんだね」
さっきあまり広くない部屋を一通り見回して、ベースの隣にギターが並んでいるのを見つけた。
「ね、アレやってみない?」
『アレ』というのは、映画の中で二人で演奏をするシーンがあり、その時の曲のことだ。
『ウイ』と『トワ』を襲う悲劇の少し前、二人で一つの曲を作りながら穏やかな時間を過ごす。BLACK ALICEの普段の楽曲とは違う、スローテンポのノスタルジックな曲という設定だった。
当初それは既存の、BLACK ALICEの数少ないバラード曲の中の一つを起用する予定で空き時間に二人で練習していた。
しかし、実際撮影の段階になると、鎌田監督が「あ、やっぱり新しい曲二人で作ってよー」と無茶ぶりしてきたのだ。
そういうわけでこの曲『Melancholy』を二人で巻きで誕生させたのである。完成させるまでこのシーンは後回しにされていた。
ちなみに映画内ではウイがところどころ歌詞をつけているが、それを今後完成させて、映画の主題歌『黒薔薇の葬送』のカップリング曲になる予定だ。
「いいよ」
声音は怠そうだが彼はすぐに立ち上がった。
ウイにギターを渡し、自分はベースを持ってウイの隣で胡座をかいた。
ポロン……とそれぞれが指慣らしをしてから、顔を合わせる。
それが合図だった。
弾いている間トワの顔は見えないが、きっと穏やかな顔をしているのではないかと思った。あのシーンの彼のように。
最後の音を惹き終える。
ウイはふっと感嘆の息を零した。
「やっぱ……あんたと演ると気持ちいいな」
同じことをウイも言おうと思っていた。
二人で曲を作るのは初めてだった。こんなにもしっくりくるものだとは思っていなかった。
しかも、トワが同じ思いを抱いてくれたことがひどくウイを高揚させた。
「おまえと曲作ってる時からオレもそう思ってた……!」
「うん。変だな、あんたのことあんなに苦手だったのに。実はこんなにしっくりくるなんて」
お互い楽器を持ったまま隣に顔を向ける。
見つめ合っていると、トワの顔が近づいてくる。
トワの唇が熱く、優しく、ウイの唇を押し包んだ。
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