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ふと目を覚ますと、カーテンの隙間から陽が差し込んでいるのが見えた。
「…………え?」
寝ぼけた頭で最初はよく分からなかった。だんだんと覚醒してきて、まずここが自分の部屋じゃないことに気づく。そして、なんで自分が見知らぬ部屋にいるのかということに思い至り、昨日の出来事を順を追って思い浮かべる。
(ちょっと、待って待ってっ)
上掛けの中にある自分の身体を見ると、真っ裸だった。一瞬で白い肌が赤くなる。
ガバっと起き上がろうとしたが、背後で身動きを取る微かな気配を感じて固まった。
ここはトワの部屋で、今ウイがいるのはトワのベッドの上。当然背後でする気配はトワである。
(や、逆に、振り返ったらまったく知らん人だったら、余計怖いわ〜)
現実逃避のためか、脳内で妙な考えが走り去っていく。
(そうだ……昨日、あの後……)
「背中、真っ赤だ」
腹に手が回ってきたかと思うと、背中に唇の感触がした。しかしここでヘタに動くことができない。
寝たフリをするべきか、振り返るべきか、逡巡する。
「何? 寝たフリしてんの? もしかして、恥ずかしいとか?」
(バレてる)
余計に恥ずかしくなって上掛けを引っ張って頭から被った。
「はは。やっぱ、あんた可愛いわ」
そんなこと言われてなんと答えればいいのか。
無言でいると腹で組まれていた手が解かれ、二人の間に空間ができる。
その距離感のまま二人とも黙り込み、ウイはもうどこで振り返っていいのか、話しかけていいのかわからなくなってしまう。
先に口を開いたのは意外にもトワのほうだった。
「あんたさ、慣れてるのかと思ったけど、そういうわけじゃないんだな」
からかっているような声音ではない。
トワが話しかけてきたことで、ウイはやっと自らも動きを取れるチャンスが巡ってきたと思った。
上掛けの中に入ったまま、もぞもぞと身体を動かしトワのほうに身体を向ける。目の辺りまで上掛けをずらす。
トワは寝転んだまま肘を立てて、その上に頭を乗せている状態だった。どうやらずっとウイのことを眺めていたらしい。
ウイは上目遣いに彼の顔を見た。
「……慣れてるって?」
口元は隠しているのでどこかくぐもったように聞こえる。
「男とのセックス」
「う……っ」
ズバリ切り込んでくる。
(トワからこういうワードが飛び出してくるとは。なんか、聞きたくなかった)
一見性にはストイックな雰囲気のあるトワ。スッと孤高に立ち尽くしているようで、愛に溺れるようなことは想像できない。実際にはかなり経験豊富なのではないかと、『あの時』思ったのだが。
「実際してみたら、キツイし、泣くし、慣れてなさそうだし」
自分の赤裸々な話をするのは、さすがに恥ずかしすぎる。トワの顔を見たままでは話せないので、視線を外した。
「前にも言ったけど、オレ、セックスは女のコとのほうが多い。男とも経験あるけど、最後までしたのはおまえいがいは過去に一人だけで、しかも一度だけだ」
「そうなのか、どんな奴?」
トワがそんなに突っ込んで聞いてくるとは意外に思えた。
確かに、行き着くところまで行き着いたばかりだが、過去のことにまでこだわるほど自分への想いがある気はしなかった。
それとも、少しは絆されてくれてたのだろうか?
(だいたい、どうしてあんな展開になったのか、わかんないんだよね〜。あの日以来何もなかったわけだし。少しは距離縮まったような気はしたけど、別にオレのこと好きになってくれたとか、全然感じなかったし)
そんなふうに考えながら、ウイはトワの問いに答える。
「あのライブハウスにいた時、組んでたバンドのリーダーでオレにギター教えてくれた人。十歳くらい上で当時のオレにはすごく大人に見えていた」
「好きだったのか?」
「や、そういうことじゃないんだけど。まぁ、憧れてはいたかも?」
今考えてみても彼にどんな感情を抱いていたのか、はっきり分からない。
「――オレの初ステージだった。メンバーもオレも、すごく高揚していた。終わってからそのまま店でみんなで酒盛りして、気づいたらリーダーとオレの二人だけになってて……」
その後は口にしなくても察してくれるだろう。
「施設や学校のダチにもそういうヤツがいて、寸前までみたいなことも何回かあって、なんとなく抵抗感低かったのと、やっぱりちょっと興味本位なところがあったのかも。オレも若かったから。あ、でもその後は何もなかったよ」
恋人でもない男になんの言い訳をしているのか。
「ふーん、流された、ってわけか」
「あ、うん。だいたいがそうだねー。そういえば、本気で自分からつき合いたいって思ったことな……」
そこまで言ってハッとする。
(これって、オレこそひどいヤツなんじゃない?)
今まであまり深く考えたことがなかったが、これまでつき合ったことはあっても、どれだけ真剣だったかと言われれば疑問である。
「どうせ、あんたのことだ、相手に合わせたんだろ」
『最低だ』と言われても仕方がないのに、トワが本人すら気づかなかったことを気づいて擁護する。それが嬉しくて泣きそうになった。
「そう……かもな」
「――もう、俺以外に流されんなよ」
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