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第2話
それからというもの、俺はひとりで両親が残した畑を耕してなんとかやっていた。
村の生活はおおらかなもので、助け合いと物々交換が基本だ。いくつもの村が協力して行う大きな祭りの夜には、目が合った相手が男でも女でも夜這いしてきて、その中でなんとなく、うまくいきそうだという相手がみつかったら一緒に暮らすようになる。相手が女だったら祝言をあげることもあるが、男ならとくに何もしない。村の生活はそんな感じだった。
たしかあのときはもう十六になっていたはずだ。秋祭りの夜、ものかげで、町で買ったという張り型をもってる男と立ったままやったことがある。十年以上前のことだから、男がどこのやつだったかは覚えていない。
もともと俺は尻を弄られて気持ちよくなるのが好きだったが、その張り型はすごかった。大きかったからというより、俺の奥の、これまで想像したこともないようなところ、そんな場所があるのかと思うようなところをえぐったのだ。
「あ――あああん! やぁ、ああん、抜いて、あうっ……」
月の光が斜めに差しこんでいたことをやけにはっきり覚えている。俺は膝をがくがくゆらし、女の子でもあげないような声をあげ、涎まで垂らしてしまった。男はいやらしいことをささやきながら張り型を抜いて、今度は自分のものをつっこんできた。
でも正直いうと、あのときは張り型で感じた気持ちよさが圧倒的で、男のはそうでもなかった。終わると男はよかったとかなんとかいい、まだぼうっとしている俺の前で張り型をぬぐって、よごれた手拭いを放り出していなくなった。
俺もさっさと自分の家に帰ろうと思ったのだが、地面におちた手拭いを何気なく拾って、変だなと思った。月光にきらきら輝くものが表面についている。
胸騒ぎがして、俺は手拭いを家に持って帰った。翌日桶の水で洗うと、金色のふぞろいな粒と薄片が底に沈み、日の光に輝いた。
これは――
俺は家の中に駆けこみ、ばあちゃんがくれた革袋(天井裏に隠していたものだ)をさがしだした。桶の中の金色のものと革袋の中身を日の光の下でくらべると、そっくりおなじだった。これも金だ。
いったいこれはどういうことなんだ? 魔法だとしたら、どんな魔法だ?
質問に答えられそうな人は誰もいなかった。それにどこからともなく金ができるなんて、うっかり他人にいえることじゃなかった。のんきな村の暮らしでもそのくらいはわかる。
俺は自分一人で実験することにした。まずは、男が持っていた張り型を再現することからはじめた。あいつを探し出して張り型を貸してくれなんて、いろんな意味で怖すぎていえないからだ。目で見た形と、俺の体が覚えている感触を思い出しながら、夜中にあれこれ試すうち、ついに俺の特異体質がわかった。
どうやら俺の体の表面、皮膚やら粘膜やらを何かで覆われたりつつかれたりして、ものすごく気持ちよくなると(ものすごく、が重要だ)俺に触れたところが金に変わるらしい。張り型のすべりをよくするために塗る油とか糊とかが金になる。
じゃ、本物につっこまれて気持ちよくなるとどうなるかって?
実をいうと、俺は「気持ちよくなると金に変わる」のを知ってからしばらくのあいだ、村の誰に誘われても断っていた。
これまではそんなことがなかったといっても、もし、ものすごく相性がよくてうまいやつがいたとして、相手のあそこが翌日金ぴかになったりしたら、いったいどうしたらいい? それに張り型でさんざん実験して、そっちがすっかりよくなっていたから、というのもある。
ところがそんなある日、村に冒険者がやってきた。
なぜならそのすこしまえ、村からさほど遠くない岩山に大きなダンジョンがみつかったからだ。どこからか、竜が棲むダンジョンだという噂がたったので、都の王様が調査の騎士団をさしむけた。しかし竜はあらわれず、金をはじめとしたお宝がみつかったのである。
たちまちゴールドラッシュがはじまった。ダンジョンには竜退治を名目にお宝を探す冒険者たちがおしよせ、その前に宿や食料をもとめる連中がこのあたりの村々を訪れるようになったのだ。商人たちもやってきたし、目端のきく連中は家を宿や酒場に改装した。
助け合いと物々交換でやっていたのどかな村の風景はあっという間にかわってしまい、俺はそんな酒場のひとつに畑の作物や鶏の卵を卸すようになった。
そんな折に目をつけられたのかもしれない。村の酒場にたむろする冒険者の中に、ひとり、いけ好かないやつがいた。
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