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第23話
田上真生既婚説を裏付ける証拠を目撃した気分だった。
帰るなり風呂に入る。ぶくぶくと口元まで湯に浸かりながら渋面を作る。
何と言って問い詰めてやろうか。
だがしかし単にキスを交しただけの関係で、寄り添って歩いていた女性について問い詰める権利があるのか?
と、にわかに弱気になる。
いやしかし部屋の合鍵をくれると言ったんだぞ。
そういう関係を望みながら女と腕を組んで歩くとは何事だ。
と今度は強気で階段を踏み鳴らして二階の自室に戻る。
「あっちゃん、もっと静かに歩きなさい!」
と怒鳴っているのは婆ちゃんである。
「おやすみなさいっ!」
怒鳴り返してぴしゃりと戸を閉める。
布団にもぐりこんでスマホを覗くと真生からLINEが届いていた。
〈大学時代の恩師が秋の叙勲で紫綬褒章を受章することになった〉
既読。
〈お祝いのパーティーに行った帰りだ〉
既読。
〈刈谷は大学時代のただの同級生だ〉
既読。
〈慣れないハイヒールで足にマメが出来たそうだから腕を貸した〉
あぐりが知りたいことをピンポイントで伝えて来る。どこまで気が合うんだ?
それもまた妙に忌々しく既読スルーを続ける。
〈ところで、あっちゃんはあの神主さんとどういう関係なのかな?〉
〈あっちゃんとか呼ぶな〉
〈あぐり〉
〈御園生先輩は、高校時代のただの先輩だよ〉
〈夜中にただの先輩と二人っきりで何をしていたのかな?〉
〈チラシをもらったろう〉
〈じゃあ、来年の正月は二人きりであの神社に初詣に行っても問題ないかな?〉
既読……いや、返事をつけなければ。
だが何を返したらいいかわからずそのまま眠りに落ちた。スマホを抱き締めてむにゃむにゃ何やり寝言を言ってから、自分の声にはっと目覚めて、
〈来年は坂上神社に初詣して寄席の初席に行く。二人で。二人きりで。ここ重要! OK?〉
と返信した。
その言葉に、
〈二人きり。重要OK〉
の返事が届いているのを知ったのは、ずっと後になってからだった。
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