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第22話

 渋々代金を支払う。来年三月に本城コンサートホールで開かれるようだった。 「えっ、すごい! 本城コンサートホールでやるんですか?」  これまでは小さなライブハウスばかりだったのに。 「まあな。音楽室を借りれたよ。坂上神社の名前も役に立つぜ」 「音楽室……ですか」  何だか知らないが、やる気に満ち満ちている先輩である。  高校時代は共に郷土史研究部という地味な部活に属していた。  特に郷土史に興味があったわけではない。活動のない楽な部活のわりには内申書では好印象だろうと踏んで入部しただけだった。  部活に集った面々は大半が同様の思惑らしく、一学期の初めに真柴本城市の名所旧跡巡りをしたぐらいで、後は殆ど何もしなかった。  ミソッチはむしろ部活の時間にバンド活動に勤しんでいた。  あぐりはただ帰宅して、スマホで同性愛活動に勤しんでいた。出会い系サイトで大学生と知り合い初体験を済ませて交際などもしてみた。  そのような青春であった。 「あっ! こないだはどーも。こちら、よろしく!」  改札口に駆け寄ると、宮司はまた神社のチラシを渡している。  腕を組んだ男女二人連れである。男性は田上真生、女性はあぐりが入院した病院の刈谷医師だった。  二人はまるで結婚式に出席した夫婦であるかのように、揃って正装で引き出物らしい手提げ袋を下げている。それぞれにチラシを受け取ると、一階の駅前ロータリーへと階段を降りて行った。  真生の腕には刈谷医師の手が巻き付いている。その姿は紳士が淑女をエスコートする時の模範例のようだった。  長い髪を結いあげて薄紫のシフォンのドレスを纏い、ヒール10㎝はあろうかという紫のパンプスを履いた女医は、白衣の時の数万倍も眩く美しい。  真生はちらりとあぐりを見たようでもあるが、単に顔をこちらに向けただけかも知れない。 「マジ見た? あぐりっち。メッチャ美人! 田上さんの奥さん?」  袴をバサバサ鳴らして足踏みするミソッチ先輩である。 「てか、何で先輩は田上さん知ってんですよ!」  食いつくように言っていた。美人医師だけでなくこの宮司とも関係があるのか真生は? と口惜しさに歯ぎしりせんばかりである。 「あん?」  まともに目を覗き込まれて気がついた。  坂上神社でお祓いをしてもらったではないか。婆ちゃんと叔母ちゃんと真生の四人で。 「いや、まあ、別に……」  誤魔化すあぐりに先輩は、ライブチケットを改めて数枚押し付けた。 「田上さんと、あの美人にもライブに来るように言ってよ。あと、あぐりっちのご家族にも、よろしく!」 「そんなに何枚も買う金ないよ」 「支払いは当日でいいから。チラシ出来たらまた持ってくから。マジ宣伝しといて」  その夜はミソッチ先輩と共に駅前のファミリーレストランで夕食を済ませると、すごすごと家に帰った。  

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