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第26話
今日もあぐりの代りを勤めてくれたのは、襟首タオルの先輩だった。首にかけたタオルで顔を拭きながら、
「あの駅裏の田植えとか何とかいうお客さん、困るね。今朝も再配送を依頼してるから行ったのに留守なんだ」
「ああ……忙しい人みたいですね」
と伝票を受け取り再配送の荷物を引き継ぐ。
休憩室でみんなが昼食をとっている間に午後の荷を積み込んで出庫しようとしていたのだが、江口主任に呼び止められた。
「今日の配達が終わったら、話があるから声をかけてくれ。篠崎君も家庭の事情で大変だとは思うがねえ……」
と注意勧告の為に残すのだとの言わんばかりの口ぶりである。
あの〝HIV発言〟以来まともに顔を見るのは久しぶりである。トラックの中で昼食をとったりして、なるべく顔を合わせないようにしていたからである。
あぐりはただ「はい」と頭を下げて部屋を出た。
隣の休憩室からはドライバー達の楽しげな話し声が聞こえる。
「知ってる、知ってる。白鳥の絵が描いてあるラブホだろ。あそこレースのカーテンとかあって、女に受けるよ」
「いや、女じゃなくて。男だけで行く奴がいるって話」
「ああ、リモートワークね。スワンホテルなら案外映りがいいかも……」
「あほか。ならビジホに行くだろうよ」
森林コンビを相手に熱弁をふるっているのは、襟首タオルのドライバーだった。
事務職でもないのに何でリモートワークの話なんだ?
首をかしげながら休憩室とは反対の倉庫に向かうのだった。
午後の配送と集荷も終えて一旦事務所に戻る。集荷した荷物を東京ターミナル(真柴本城営業所も一応東京管内である)に送るトラックに乗せた後、夜間の再配送に出る。
目から涙が流れるのは何とか止んだが、どうにも視界が曇って運転も慎重になる。夜間なら尚更である。常より速度を落として走るから配達にも時間がかかる。
また事務所に戻って来たのは午後十時近かった。
事務所では主任が一人でパソコンに向かっている。アルコールチェックをしているあぐりに近づくこともなく、
「ああ、ご苦労さん。篠崎くん」
と手招きをする。
あぐりは主任の席に行き、とりあえず頭を下げる。
そして出社前に電話で報告はしていたが、改めて婆ちゃんの失態によるボヤについて説明した。
「まあ、そうね。あんまりお婆さんの介護に時間をとられるようなら、逆に正社員じゃなくパート勤務にする手もあるよ」
「……そうですね」
それは考えないでもなかった。同じドライバーの中にも短時間パートはいるし、三田村さんのような事務職は殆どパートや派遣である。
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