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そして、今 #4

「君はお父さんの会社を継ぐのだろうから、こんなことはもう止めた方がいいよ」 「……俺は会社なんて継がないから」 碧はすぐ言い返す。他者が当たり前のように自分が父の会社を継ぐと思われている事に、心地悪く思っていたからだ。 「お父さんは、そのつもりなんじゃないの?」 「弟達に継いでもらうからいいです。雅美さんも喜ぶし」 榊は碧の父親と以前、やり取りをした時を思い出す。 (君のお父さんは、君に継いでもらいたがってたみたいだけど) 不機嫌に口を噤んだ碧の姿はそれでもとても端正だった。 榊は碧の父親から自分の妻と碧はとても似ていると聞いた。 (男の碧ですらこんなに綺麗なのに、碧のお母さんはどんなにか美人だったんだろう?今の雅美さんという継母さんも美人だけれども……) 榊は、継母とは碧の見舞いに来た時に会ったがとても綺麗な人であったのを覚えていた。その彼女が産んだ碧にとっては、腹違いの弟と妹がいた。 (たしか、まだ弟も妹も、1歳か2歳でまだ赤ん坊だろう。2人に継がせるといっても、その2人が一人前になるにはまだまだ時間がかかるだろうに……) 碧の父親とこんなに懇意になったのは、碧の治療をしている時に話した事で偶然にも碧の父親と同じ高校出身だと知ったからだったが、だが、榊と碧の父親とは、当時もそんなに交流もあったわけでもなく、ただ先輩と後輩というだけのものだった。だけど、同じ高校の出身だと言うだけで少し気安い。 .

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