57 / 59
追想 #1
…
……
………
『……昌紀、お前はかあさんを守るんだよ』
あれが、兄の声を聞く最後だった。
あの時、私はまだ小学生だった。
自分の息子は、兄に似ている。
あの時、何故兄が死んだのか、何故、そうなったのか分かったのは、私が大人になってからだった。
そんなことを思い出しながら"碧の父"の昌紀はそっと目を閉じる。
一年前、碧が喧嘩をして相手に怪我を負わされて入院したことがあった。
その相手の名は『宮田 竜良』と言われた。
(宮田?聞き覚えのある。だけど珍しい名前でもないから)
碧の病室へ現れたのは、紛れも無い「彼」だった。
彼の名は『宮田 龍介』竜良の父親。
そして、光紀の。
碧の父の兄が最も大事にしていた「恋人」だった人だ。
碧の父親の名前は昌紀。光紀は兄だった。
……………
………
……
光紀は碧の父親の昌紀が小学生の時に亡くなった。
当時は昌紀は子供だったために、その詳細は良く知らなかったし分からなかった。
光紀は、なにかの薬による幻覚を見てそのまま窓から飛び降りてしまった。
飛び降りた場所と高さが良かったのか、死に至ることはなかった。
そして、しばらく入院していたが、結局は亡くなってしまった。
「空を飛べると思ったんだよ」
「だって、人間は飛べないよ?にいさん・・」
「そうだよね。だけど。そう思ったんだよ」
見舞いに来た昌紀に光紀はそう言って弱く微笑んでいた。
昌紀は、兄が好きだった。父がいなくて寂しかったけれども、兄がいれば安心した。優しくて、笑っている兄はとても綺麗だと思っていた。
だけどその兄の光紀がある日突然、変になった。
それは突然に。
ある日、遅くに帰ってきた光紀が、いきなり、母親の薬を大量に飲みこんだ。
当時、光紀と昌紀の母親は、夫が亡くなり精神的に弱っていて病院に通いこんでいた。
その処方された薬だった。
なにかの薬だろうとは思うけれども、子供だった昌紀にはわからなかった。
働いていた母親はまだ帰ってきていない。目の前でそんなことをしている兄を見てびっくりした昌紀は驚いて必死に止めた。
「それ、かあさんの薬だよ勝手に飲んじゃだめだよ!」
「いいんだ。かあさんが、つらいときにいつも飲んでるだろ?だから、俺もつらいから飲むんだよ」
その後すぐだったか、それから何日かたってのだったか昌紀には思い出せなくなったが、他に他所からもらった薬を飲んでいたのも見てしまった。
それからしばらくの事、光紀が、窓から飛び降りた。
昌紀は大人近くになってから、その理由を知った。
(兄は、自分と母親との為に犠牲になったんだ……)
.
ともだちにシェアしよう!

