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第57話 ※

※性描写があります。苦手な方はご注意下さい。 「ぁ、……んっ、ふ、」 触れた唇はすぐに離れて、そしてまた触れてくる。角度を変えて何度も落とされる口づけは、ただそれだけで思考を溶かしていく。 唇が離れた瞬間、酸素を求めて薄く口を開けば、僅かに開いた隙間に熱い舌が捩じ込まれた。 「ん、っぅん、…」 跳ねる身体は腰を抱き寄せられて逃げ道を塞がれ、ぬるりと湿った熱の塊が僕の口内を掻き回す。 歯列をなぞって、上顎を舐めて。舌を絡め取られて、奥に引っ込めるどころか裏から舐められて吸われて。あまりにも未知の感覚に、腰に力が入らない。 「ふ、ぅ、ん、……ぁ、」 そのうちに飲みきれなかった唾液が顎を伝い落ちても、僕はされるがままになっていた。 ゾクゾクと背筋を這い上がる初めての感覚。怖い。もっと、触れていたい。せめぎ合う感情に答えを出せないまま、ついには脚の感覚まで溶かされて、僕は緋葉(ひよう)の胸に倒れ込んだ。 「、ヒヨ……、」 互いに荒く繰り返す呼吸が、静かな夜のベランダに響く。 「……やべぇ、やっぱ足んねぇや。」 いつもより低く余裕のない声。 熱に浮かされた眼差しに、心臓がドクンと跳ねる。 心臓、本当に壊れそうだ。 思わず服の上から自らの胸をぎゅっと掴めば、なぜか緋葉はあ、と身体を大きく跳ねさせた。 「も、もしかしなくてもあれか。こういうのって心臓に良くねぇのか!?」 慌てて飛び退く緋葉のシャツの裾を、僕は咄嗟に掴む。 「……平気だよ。」 「いや、でも、無理させたくねぇし、」 そんな目をしておきながら、今更何を言っているんだろう。 欲望を隠しきれないくせに。 僕に、その熱を移したくせに。 緋葉はいつだって僕を気づかって、大切にしてくれる。重いくらいの情を向けてくる。 だからこそ僕は、そんなこの人の想いに応えたいのに。 ああ、そうか。 今なら、あの翻訳の気持ちがわかるかもしれない。 「…………死んでも、いいかも。」 まっすぐ見つめた先で、緋葉の瞳が大きく見開かれた。 「ヒヨと触れ合って心臓壊れるなら、それでもいい。……それくらい、僕だってヒヨのこと…っん、」 言葉は最後まで紡がせて貰えなかった。 触れるだけの口づけで僕の言葉を奪った緋葉は、眉間に皺を寄せ自らの金糸をかき乱す。 「あーくそっ、煽んなって!」 「わ、」 緋葉の腕が伸びてきたと思ったら、そのまま担ぎ上げられた。 不安定な体勢に降ろしてと足をばたつかせても、緋葉はビクともしない。 「大事にしてぇって思ってたのに、もう知らねぇからな!」 耳元で囁かれた切羽詰まった声。 肩に担がれ運ばれた先は、緋葉の部屋だった。 投げ落とされるように乱暴にベッドに降ろされたのは、緋葉に余裕がなかったからなのかもしれない。 けれど、緋葉自身はベッドへ身を乗り上げることはせず、なぜだか勢いよくクローゼットの扉を開けた。 もっとちゃんと、とか、段階踏んで、とか、俺の馬鹿野郎、とか、呟きながら収納ケースの中の物をひっくり返し、乱暴に漁り、奥底から引っ張り出してきたのは……既に開封されていた避妊具と小さなボトル。 明らかに使いかけのそれらを手にベッドに戻ってきた緋葉は、気まずさからか自制のためか、思いっきり自らの髪をかき乱した。 「くそっ、」 ギリリと奥歯を噛み締め何かに耐える緋葉。 僕はゆっくりその場に身を起こして、緋葉に身を寄せる。 「……べつに、なんでもいいよ。」 「翡翠(ひすい)、」 緋葉の手から避妊具の入った小さな箱と、ボトルを奪い取った。 多分、僕自身も既に冷静ではいなかったんだと思う。 緋葉の熱が、僕に向けられている。 もっと、もっと欲しい。 「……僕に、使ってくれるんでしょ?」 「っな、」 蒼穹が見開かれたと思った瞬間に、景色は反転していた。 逞しい腕に肩を押され、勢いよくシーツの海に沈み込む。 ギシリとベッドの軋む音が妙に響いた。 「やべぇって、くそっ、」 ちっと小さく舌打ちが響いた直後。 覆いかぶさってきた緋葉の熱い唇が、僕の首筋に食らい付いた。 小さな痛みと同時に、付けられる痕。 「んぁッ、ぅ、」 初めての感覚に身体が跳ねる。 けれど、身じろぐ暇もなく緋葉は容赦なく僕の唇を奪った。 本当に、ライオンみたい。 まるで獲物に喰らいつくみたいに口内を貪られながら、緋葉の手は僕のシャツのボタンにかけられる。むしり取るように開かれて、あっという間にシャツはただの布切れになってベッドの下に落とされた。 「くそっ、ごめん、余裕ねぇ。」 悔しそうに、苦しそうに吐き捨てた緋葉は、自身の着ていたTシャツを乱暴に脱ぎ捨てる。 「……翡翠っ、」 「ヒヨ、」 掠れた声に引き寄せられるように手を伸ばし、緋葉の頬に触れた。火傷しそうなほどの熱をそこに感じながら、僕はダラリと身体の力を抜いて、伸ばしていた手もベッドへと落とした。 全部受け入れたい。 一番近いところにいたい。 もう二度と離れないくらいに。 「ヒヨ、……好き、だよ。」 怖い気持ちも本当。だけど、それ以上に何よりも深いところで繋がりたい欲求が僕を突き動かしていく。 無抵抗で何もかも委ねれば、緋葉はゴクリと息を飲んだ。 その手が、僕の胸に残る僅かな手術痕を大事そうにひと撫ぜしてから離れていく。 「っっ、くそっ!頼むからもう煽んな!」 緋葉は苛立たしげに僕のズボンのベルトに手をかける。腰を浮かせると下着ごと一気に降ろされた。 肌寒さと不安に小さく身を震わせている間に、緋葉は躊躇うことなく自らのスウェットにも手をかけ、下着と一緒に脱ぎ捨てる。 ゴクリと、今度は僕が息を飲んだ。 適度に筋肉のついた逞しい身体。運動ができない僕とはまるで違う身体。 逞しい腕が、僕の下肢に伸ばされる。 「っ、ぁ、」 自分じゃない手がそこに触れるだけで、背筋を快楽が駆け上がる。 ゆるゆると扱かれれば、そこは徐々に硬度を持ち始めていった。 「んぁ、……っ、」 熱い手に包まれるだけでどうにかなりそうで、その状態でさらに先端をくりくりと刺激されてしまえば、自然と腰が浮き上がり声が漏れてしまう。 「待っ、なに、……ぅあッ、ゃ、ダメっ、」 なにこれ。 怖い、 気持ちいい、 頭が真っ白になっていく。 「やだっ、ん、で、ちゃうっ、」 「いいぜ、出せよ。」 「あっ、ゃ、ヒヨっ、」 必死に訴えたつもりなのに、緋葉は止まることなく僕の弱い部分を責め立てる。 上下に擦って、時折先端を抉って、根元に指を滑らせて。たったそれだけの刺激でも、僕はすぐに絶頂へと導かれた。 「ゃ、もぅ、イっちゃっ、……んぁあッ、」 瞼の裏にチカチカと光が飛ぶ。 強烈な快感と、強烈な脱力感。 クタリとシーツの海に沈んだ身体を、欲望に染まった蒼穹が見下ろす。 「……やべぇって、」 意識が遠のきかけた視界の中で、緋葉の手がいつの間にか僕の手を離れてベッドに転がっていたボトルを手に取っていた。 ゼリー状の液体を手のひらに絞り出し、それは僕の下肢へ。 あまりの冷たさに跳ねた身体を、緋葉は膝を押さえて割り開いた。 「わりぃ、もう、無理っ、」 「んぁあッ、」 強引に押し込まれた指一本が、グチグチと淫靡な水音を立てながら僕の中を蠢く。 初めて感じる異物感に、強張る身体。 押し開くように強引に僕の中に入ってきたそれは、すぐに二本に増やされ、水音を響かせる。 「ぅ、ぁ、んっ、」 「くっそ、その顔反則だって、」 「ひっ、ぁっ、」 知らない、こんな感覚。 緋葉の指がある一点を掠めれば、喉からは自分でも信じられないような声が溢れていった。 「あっ、ダメっ、ゃ、」 「ここ?いいのか?」 「わ、わかんなっ、ヒ、ヨっ、ああぁっ、」 同じところばかり集中的に責められると、目の前がチカチカする。 気持ちいいなんてものじゃない。 ただただ緋葉の指の動きに合わせて、僕の喉からは熱に浮かされた声が零れ続けた。 また、なにかが背中をせり上がってくる。 でも、いやだ。 僕が欲しいのは、 「っ、……ひよぉ、」 「んな目で見んなって。……もう、限界だっての!」 苦しそうに吐き捨てた緋葉の額からは汗が伝い落ちる。僕を見下ろす蒼穹は、雄の色を宿していた。 緋葉は僕の中から指を抜くと、ベッドの上に転がっていた箱から銀色のパッケージを一枚抜き取り、パッケージを切ろうとする。けれど、興奮に震える手では上手くいかなかったらしく、ついには口にくわえて乱暴に封を切った。 そうか、これって性行為なんだ。 熱を帯びたそこに被せられた避妊具が、今更ながらの事実を僕に突きつけてくる。 「翡翠っ、」 ふーっ、と歯を食いしばり、理性という細い糸を切るまいと耐える緋葉。 激しい欲望を抱きながらも、僕を傷つけまいとしているんだろう。 「……たぶん、こっちのが楽だから、」 なんとか言葉を絞り出して僕を仰向けにしようと伸ばされた手を、僕は嫌だと首を振って拒んだ。 手を伸ばしてギュッと緋葉の首にしがみつく。 「……やだ。怖い、から。ずっとこうしてて。」 抱きついた耳元でぐぅぅっ、と呻き声が聞こえた。 「ああもう!」 耳元で大音響で叫び声が聞こえたと思った瞬間には、肩を押されてベッドに押さえ付けられていた。 「痛かったり辛かったりしたら絶対言え!止めるから!……たぶんっ!」 怒ったみたいに眉間に皺を寄せて、だけど声は情けないくらい掠れていて。 余裕がないのは、僕も緋葉も同じなんだ。 緋葉にしがみついて、ギュッと瞳を閉じる。 窄まりに触れた熱は、ぐ、と押し込まれメリメリと音がしそうな程強引に内側を圧迫していく。 「かはっ、……っぁ、」 「ぐ、っ……ひすい、」 息苦しさに悲鳴すら上げられなかった。 ミシミシと身体が軋む音が聞こえる。 狭い器官を割り開いて入ってくる固い楔に、自然と涙が溢れた。 それでも懸命に呼吸を繰り返し、少しでも緋葉が入りやすいよう力が抜けるように努力していると、僕の頬に温かい滴がポツリと落ちてきた。 反射的に瞼を開ければ、蒼穹を映した綺麗な瞳から大粒の涙が雨のように降ってくる。 「なんで、泣くの、」 「っ、わ、かんねぇけどっ、止まんなくて、……つか、翡翠だって泣いてんだろ。」 気づいたらもう止められなかった。 こんなに、近くにいる。 痛いし、苦しいけど、 嬉しい。 涙は勝手に流れていく。 「っ、……ヒヨぉ、」 「翡翠っ、」 首に回していた手に力を込めれば、強く抱き返された。 ゆっくり背中をさすってくれる手に、少しずつ身体が弛緩していく。 「う、ごくぞ、」 僕の身体の内にあったものがゆっくりとギリギリまで引き抜かれ、圧迫感が軽くなったと思った次の瞬間、パシンッと一気に奥を穿たれた。 「んあぁっ!」 「ぐ、ぅっ、」 衝撃にしなる身体は、緋葉に強く抱きしめられ、押さえつけられた。 呼吸もままならない中で何度も腰を打ちつけられ、中の弱いところを抉られて。 まだ気持ち良さなんてわからないはずなのに、その動作が繰り返されればされるほど、次第に甘い痺れのような感覚が広がっていく。 肌と肌がぶつかる乾いた音とベッドの軋む音が耳元で響いて、ギシギシと揺れる身体が痺れに打ち震える。 「ヒヨっ、ひよ、ぉ、」 「翡翠、ひすいっ、」 ただひたすらに互いの名前を叫びながら、緋葉の律動は激しさを増していった。 熱くて、切なくて、嬉しくて。だけどやっぱり痛いし苦しい。 気持ちいいのかすら、本当はわかっていない。 でも、何かに満たされていく。その感覚だけは確かだった。 緋葉の声が近い。体温が近い。呼吸が、鼓動が、……心が近い。 まるで一つに溶け合ってるみたい。 「翡翠っ、」 「んぁッ、…あ、あっ、あ、」 緋葉の切なそうな声が脳髄に染み込んで、痛いくらいに心臓を鷲掴む。 「ひ、よ、」 「翡翠、翡翠っ、」 涙が混じった掠れた声は、酷く優しくて、それでいて激しい激情を感じさせる。 ギシギシと激しい音を立てるベッド。 荒々しく繰り返される律動と、熱くてたまらない緋葉の熱。 視界が、白く染まっていく。 「も、だめ、ひよっ、」 「っ、俺も、もう、」 限界はあっという間におとずれた。 「んあァっ、あぁぁッ!」 もう一度強く奥を突かれた瞬間、全ての感覚を絶頂の波がさらっていった。 僕自身が放った熱が自らの腹部を濡らす。 ビクビクと痙攣し跳ねる身体で力いっぱい緋葉にしがみつく。 「ひす、い、……っっぅ!」 僕を抱き返してくれる力強い腕。身体の内側で緋葉の性が爆ぜたのを感じながらも、僕の名前を呼ぶ声がどこか遠くに聞こえた。 「ヒヨ、……」 急激に脱力感に襲われて、瞼が重くなっていく。 もっと、この温もりを感じていたかったのに。 まだ離れたくないと無意識のうちに手を伸ばせば、唇に熱が落とされる。その温かさを、白に染まりゆく意識の中で僕は確かに感じていた。

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