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血塗られた約束 6

しんと静まり返った室内で、オレの呼吸音だけがやたらと大きく聴こえる。 リヒカ様が此処を出るとき、その吐息で消されたランプの火が恋しい。灯すものを失った部屋は、闇に包まれてしまったから。 灯りがないと、暗闇がこんなにも恐いなんて……当たり前の日常に、この町での生活に、オレは慣れ過ぎてしまったのかもしれない。 「……(しゅ)よ、この町を、皆を、お守りください……セオは、皆様の幸せ以外は望みません故……どうか、どうかっ」 オレの心を照らす唯一の祈りを捧げ、オレが瞳を閉じた時。 カタカタと部屋の隅のワードローブから物音がし、オレは今さっき閉じたばかりの瞼を開けていく。掻き立てられるような恐怖が身を支配し、思わず鳥肌が立って。 額に滲んだ冷や汗が首へと流れ落ちた瞬間、暗闇の中からフワッと漆黒の煙が上がり、そして。 「その祈り、叶えてやろう……セオ、お前の(あるじ)は俺だ。神ではないがな、この町に御加護があれば良いのだろう?」 「ユシィっ、さま……なぜ、ここに?」 今朝初めて会った相手、ヴァンパイアのユシィ様……オレを狂わせたケダモノは、オレの頬に触れてニヤリと笑う。 「お前が、俺を此処に招き入れたんだろうが。俺たちの(しゅ)は、人間が自らの手で招かない限り、お前らの家内に立ち入れない」 「いや、えっと……オレ、ユシィ様をっ……招き入れた覚えは、ありません……ンッ!?」 意味の分からないことを言う吸血鬼のユシィ様は、突然オレの部屋に現れたはずなのに。オレが主人の意見を否定すると、ユシィ様はオレの耳を甘噛みした。 「物好きめが、一から順に教えてやろう……お前が拾いあげた蝙蝠(こうもり)は俺だ、セオの涙で意識が戻った」 あの愛らしいコウモリさんがユシィ様で、吸血鬼に変身するなんて考えもつかない。 「……え、ウソ。あの、可愛いコウモリがユシィ、さま……だと?」 「そうだと言っている。それと、この熱……これは吸血の際、俺の牙からセオに注がれた媚薬による効能だ」 コウモリさんを自分の手でこの部屋に招き入れ、ピクリともしない姿に同情し、涙まで流して……その上、人型に変身したユシィ様に血を吸われ、誓願まで果たしてしまうなんて。オレの言動が浅はか過ぎて、泣くに泣けないけれど。 「び、やく……って、なに?」  ユシィ様がオレに触れるたび、息が上がっていく感覚が苦しいから。聞き慣れない単語を尋ね返したオレは、潤んだ瞳でユシィ様を見つめてしまう。 「生き血を捧げる人間が痛みで(もが)き苦しむことのないよう、俺たちから与えられる褒美のようなものだな。快楽に堕ちたまま、恍惚(こうこつ)の表情で死に絶えられるように注がれる薬のことさ」 「薬なのに、どうして……こんな、熱っ…はぁッ…くる、しぃ」 ユシィ様が言っていることが本当なら、苦しさは感じないはずなのに。薬は、熱を下げるために用いるものじゃないんだろうか。意識を失い、(うな)されるほどの熱が出る薬なんて聞いたことがない。 けれど、実際問題。 オレは現在進行形で、その媚薬を体験中なようで……うまく動かない身体をユシィ様に抱え込まれ、腕の中にすっぽりと収まったオレの耳をユシィ様が舐め上げていく。
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