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血塗られた約束 7

「んぁッ、ん…っ、ン!」 「イイ反応だ、セオ……ここまで真っ新な人間を抱くのは気分が良い、神への(みつ)ぎ者をこの手で奪えたのだからな」 ユシィ様の囁く声だけで、頭が溶けしてしまいそうになる。 こんなの、知らない。 息が上がり乱れる呼吸も、ピリピリと電気が流れていくような、甘く疼く身体も。得体の知れない感覚に全身が震えるのに、それに(あらが)うことができない情けなさも、全部。 「ユシィ…さま、アっ…こわ、ぃ」 オレは、今この現実を否定するようにふるふると首を左右に振り、ユシィ様の腕に必死で縋った。すると、ユシィ様は背後からオレの髪を掬うように撫で、優しい声色で話し出す。 「大丈夫だ、俺は此処にいる……怖くないから、素直に溺れていろ。淫らに俺を欲して懇願しない限り、お前のナカの熱は癒えぬよ」 「でもっ、オレ、汗が…そのッ、不潔です…肌着、濡れてる…からぁ」 力が入らないオレの身体はユシィ様に(もてあそ)ばれ、はだけていく服からはオレの素肌が見え隠れする。 柔らかな肌着は純白のワンピース、その上からカソックを羽織り、腰巻きにロザリオを着付ける修道服なのに。 熱に浮かされたオレを心配してリヒカ様が脱がしてくれたカソックはベッドサイドに置かれたままで。その上に架けられたロザリオは、オレに罪を見せつけるようにキラリと光るけれど。 じんわりと滴る汗が肌を濡らしていくのに、ユシィ様はオレの発言に笑いながら呟いていく。 「お前の血も、汗も涙も、全て美味いよ……本当に、喰い尽くしてしまいたくなる。やはりお前は格別か……セオ、お前はこの町を愛しているのだろう?」 耳に触れていたはずのユシィ様の唇がオレの首に流れ、二つの小さな傷を(いつく)しむようにキスを落とされて。 ユシィ様の問い掛けにオレがこくこくと頷くと、熱が引かぬままじくじくと熟れていくその箇所に、ツンっとユシィ様の牙が重なった。 「はぅ…ァ、だめっ…お待ち、を…」 ……また、噛まれてしまう。 そう思い、力ない抵抗でぎゅっと目を瞑ったオレを、ユシィ様はそっと抱き締めてきて。 「ユシィ、さま?」 一瞬、愛情に似た温かなお心遣いを感じたオレは、無意識にユシィ様の名を呟いていた。 「愛があるのなら、その心を俺に教えてくれ……セオ、生涯孤独の心ない悪魔と(うた)われる憐れな(しゅ)に、お前はその一生を捧げると誓願したのだから」 「ああっ、ん…イヤッ、ユシィ様ぁっ!」 身体中に響く皮膚を突き刺す音、抜けていく血液の流れは酷く心地良く、気持ちがいい……もう、完全に神の所有物になる資格を失ったオレは、ヴァンパイアに注ぎ込まれた薬物に(けが)されていく。 「はぁ…ユ、しぃ…さまぁ、そんなっ…とこ、触れては…ァ、なり、ませんっ」 意識がボーッとする。 これも、薬の効能なんだろうか……息をするたびに漏れ出る声は、ユシィ様を欲するように甘く強請っているみたいで(いや)しいのに。 「こんな…(はずかし)められッ、ては…ンッ、もぅ、おやめ、に…」 愛のない性交は、神聖冒涜(しんせいぼうとく)。 しかしながら、オレを抱く吸血鬼にそんな(りつ)は通用しない。 「ゆ、しぃ…さ、ま…」 身を捩り、泣きながらユシィ様の腕の中で初めての快楽を味わったオレは、その後ゆっくりと瞳を閉じてしまった。

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