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血塗られた約束 13

「キスしただけで喰ってねぇーんだから、ちゃんとしてんじゃねぇーかよ。アルにお前を呼びに行かせたのは俺だし……ってか、離せや」 「おいたがすぎるわ、まったくもう。油断も隙もあったもんじゃないんだからっ、人の忠告くらい素直にお聞きなさい!!」 アランが放った薔薇の枝が俺のカラダに巻きつき、身動きを封じられた俺は、そのまま壁に追いやられた。 植物を使役にすることを得意とするアラン、そんな執事をどうやら俺は怒らせたらしい。大人しく縛り付けられている気にはなれず、アランを睨み付けた俺は可憐な花びらに触れた。 せっかく回復した魔力をこんなところで使うのは惜しいが、致し方ない……そう思い、青い薔薇の花を握り潰そうとした時。危機感を覚えたのは、アランより使役の薔薇の方だった。 スルリと身を引いた薔薇たちは、一輪の花に姿を変えて俺の足元にぽとりと落ちる。俺はソレを広い上げると、俺の側までやってきていたアルの口に咥えさせた。 「ソイツ、そこの煩い主人よりかは賢いヤツだから庭に返してやって。アルもそのまま下がっていい、お役目ご苦労だった」 わしゃわしゃとアルの頭を撫で、俺が感謝の意を込めて笑ってやると。アルは嬉しそうに尾を振り、灰色の煙に紛れて姿を消していく。 アランが来てからの一連の流れを間近で目撃していたセオは、生意気な執事に支えられながらも上半身を起こし、そうしてふにゃりと微笑んだ。 「ユシィ、さま……ユシィ様ってヴァンパイアなのに、あんなにお優しい表情ができるお方なのですね。今の笑顔、とっても素敵でした」 セオの呟きに、目を丸くしたアランだったが。その後すぐに目を細めたアランは、俺に向き合い穏やかな声色で話し出す。 「だそうよ、ユシィ……私、この子のこと気に入ったわ。貴方の心に触れられる、たった一人の贈り物かもしれないから」 「……どーでもいいけど、テメェはまず俺に謝れ。使役まで出して動き封じる必要ねぇーだろ、クソ執事が」 「ご挨拶が遅れてごめんなさいね。私は、アラン・リー・シェラードよ。この性悪ヴァイパイアの公爵様に、古くから仕えているの」 「ったく、執事なら使用人らしく(あるじ)の話聞けや」 サラリと人の言葉を無視し、にこやかな笑顔をセオに向けるアラン。 明かりが灯るように、淡く、それでいて何処かむず痒い感覚に苛立ってしまう。けれど、俺を見て眉を下げ、困ったように笑うセオが愛らしいことだけは理解できるから。 「アラン、様……あの、オレはセオっていいます。えっと……よろしく、お願いいたします」 アランに頭を下げ、挨拶をしたセオに伸びる使用人の手を、俺は無意識に掴んで止めていた。 「ユシィ、貴方……いくらセオちゃんが大事だからって、独占欲強過ぎると嫌われるわよ?それに、まだなーんにもお互いのこと知らないんだら、ゆっくり話したいじゃない……ね、セオちゃん?」 「うるせぇー、テメェは黙ってろ」 「あ、あのっ……(あるじ)である貴方様のことを、ヴァイパイアだからと知りもしないで悪と勝手に決めつけてしまうのは違うと思うので……ユシィ様のこと、お教え願いたいです」 澄んだ瞳で真っ直ぐにそう言ったセオの言葉で、この場が一瞬にしてふんわりとした柔らかな空気に変わっていった。

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