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血塗られた約束 14

「本当に、いいのでしょうか……オレだけこんなに豪華なお食事をいただいてしまって……」 熱が引き、動けるようになったセオに食事を振る舞いたいと……どっかのバカ執事が、腕に寄りをかけた料理がダイニングに並ぶ。 人間を愛したアランの想い人は腕の良いコックだったらしく、アランは俺の役に立たない調理スキルを無駄に身につけているけれど。 それにしても、アランの恋人が遺した調理器具と食器類がこうして役立つ日が来ようとは……セオには本当に、何か特別な力が宿っているのかもしれない。 アランが丁寧に手入れをして保管されていた物たちが、(ようや)く陽の目を浴びているのだから。 「……豪華って、マッシュポテトとチキンスープ、それとサラダとフルーツがあるだけよ?病み上がりだから、胃に優しい品を選んだけれど、セオちゃんは普段どんな食事をしているの?」 セオの発言に耳を疑ったアランは、セオにそう訊きつつも俺の前にブラッディチェリーが入った籠を置いた。 「えっと……少しのパンと、ナッツや豆類、お野菜を用いたスープを食していることが多いです。極たまに、お魚もいただいています」 「あら、随分と質素なお食事ね……私たちに遠慮せず、今日はたーんとおあがりなさい」 アランの言葉に頷き、目をキラキラと輝かせたセオはその瞳を閉じて。 「父よ、あなたのいつくしみに感謝してこの食事を頂きます───」 セオはしっかりと祈りを捧げ、十字を切ったあとに両手を合わせた。悪の手に堕ちても尚、感謝を忘れないその姿は強者の極みだ。 コイツが司祭にでもなったら、大抵の悪は葬られるだろう。俺も例外ではないのだろうが、気に入ってしまったものは今更どうにもならない。 アランに促され湯浴みをし、どこかさっぱりとした様子のセオは、黒のガウンに袖を通しているというのに。 闇に染まることのない純白な心とやらは、吸血鬼が用意した食事にすら祈る。俺に媚薬を注がれ熱に浮かされていたのに、この食事にも(やく)が盛ってあるのではないかと警戒する素振りすら見せない。 俺を拾いあげたときも、そして今も……素性を知らないヤツを前にしているのに、セオは何処までも相手を信用し疑わない人間だ。 「セオちゃんが清らか過ぎて、私たち浄化されそうだわ……ユシィ、セオちゃんってまさか修道院の子じゃないわよね?」 俺に問い掛けてきたアランも、似たようなことを思ったのだろう。チキンスープをこくりと嚥下し、分かりやすく頬が緩んだセオを見つめながら俺は口を開いていく。 「……俺、お前に言ってなかったか?」 「聞いてないわよ、バカ公爵……もう、呆れて物も言えないわ。修道士なら、質素な食事で当然だもの。それにしても、魔力が枯渇している状態で、よくまぁ自分から教会になんて赴いたわね」 「ソレについては、そのうち詳しく話す……とりあえず今は、頭に花咲かせて食事してるヤツの邪魔したくねぇーから、お前は大人しくしとけ」 ひと口頬張る度に、ふわふわとセオの頭上に鮮やかな花が咲く。実際には、何も起こっていないのだが……幻覚でも見せられているかのような気分を味わいつつ、俺もアランもセオの緩み切った表情に安堵していた。

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