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血塗られた約束 15
【セオside】
ユシィ様に散々弄 ばれ、意識を失い、そうして連れられて来た場所は、とても立派な豪邸だった。
けれど、目覚めて早々に夢の中のような出来事ばかりが続いて……恥を感じたオレに口付けるユシィ様と、ソレを止めてくれたアラン様。行儀の良い銀色の毛並みの狼と、鮮やかな青い薔薇たちがベッドの周りを取り囲んでいた。
色んなことに悲しみを感じている暇もなく、次から次へとやってくる新体験。ユシィ様の手によって発熱したのにも関わらず、命乞いをする余裕すらオレにはなくて……というより、オレには何が起こっているのかさっぱり理解ができなかったんだ。
でも、オレはとても素敵なお顔で微笑むユシィ様に心を奪われてしまって。
リヒカ様やルーグス様、町のことを頭の片隅で気に掛けながらも、オレはユシィ様のことをもっと知りたいと強く思ってしまった。
ヴァイパイアなのに、心が温かいお人……オレを襲ったとき、ユシィ様はオレに恩があると仰ってくださった。
ケダモノだと、勝手に決め付けているのはオレたち人間の方なのかもしれない。いや、でも……あんなふうに吸血されてしまうことを考えると、やっぱりケダモノなんだろうけれど。
でも。
ユシィ様は、オレがあの町を愛していることを理解していた。町を守りたくて、オレがユシィ様に誓願した心内をすでに見抜いているような気さえする。
ヴァイパイアを信じていいのかは、正直よく分からない。けれど、こんなにも心あるお方々ならきっと……主 は、彼らを見捨てないんじゃないかと思った。
オレの主 はユシィ様ってことになっているけれど、オレの中で神は消えないから。
それに、ユシィ様に仕えている執事のアラン様はびっくりするほどお優しいお方だ。オレの看病をしてくれて、湯浴みや食事まで面倒を見て下さって……本当に、なんとお礼を申し上げたらいいのか分からないくらいオレのことを気遣ってくれたから。
まだ少ししか話していないけれど、ユシィ様とアラン様の会話を聴いている限り、お二人はかなりの信頼関係を築いているように思えた。
オレに話し掛けるときとは違う、ユシィ様の砕けた言葉遣い。決して良いとは言えないけれど、でもそれはユシィ様がアラン様に心を許している証だと思う。
オレが書物で知ったヴァイパイアとは全く違うお二人は、人間味で溢れていた。
けれど、やっぱり。
きちんとヴァイパイアとしての要素も持ち合わせているユシィ様とアラン様は、使役として獣や植物を従わせ、ソレに擬態できることを知った。
オレが救い上げたコウモリさんは、ユシィ様で間違いなかったことも、オレが見惚れた漆黒の大きな翼は、魔力が足りずに擬態後の名残りで現れていたものだったこともオレは知ることができた。
他にも。
このお屋敷は、ユシィ様のお家だってこと。
ユシィ様が爵位ある身で、公爵様なこと。
ヴァイパイアにも階級があり、下の者は魔物を従えるほどの力なんてなく、擬態も難しいこと。
そして、一番肝心なのは。
吸血鬼と人間が、愛し合える世界が存在したということだ。それが、どれだけ主 に背いた愛だとしても……アラン様が語ってくれたお話は、儚くて一途な愛情の塊だった。
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