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血塗られた約束 16
「……まぁ、こういう理由で今はブラッディチェリーがあるから私やユシィは吸血せずとも生を保てているの」
アラン様の愛する人の想いが詰まった果実、それは人間を犠牲にせずともヴァイパイアが生きていけるようにと望まれた愛のある実。
自分以外の誰かを、罪のない人間を、もう二度と傷つけることのないように……アラン様への強い想いが実らせたブラッディチェリーを口にしたユシィ様は、オレを見つめている。
「お前が愛するあの町は、この果実が育つ土壌条件を初めて満たした土地だ。あんな田舎町も、先代の領地だとは知らなかったがな」
「表向きは人間の地よ、誰も吸血鬼が土地の権利を保有しているなんて思っていないわ。先代が牛耳っていた時の人間なんて数百年前にお亡くなりになっているんですもの」
さすが、不老不死のヴァイパイアだ。
土地の権利云々については、何を言っているのか全く分からないけれど。
「ブラッディチェリーが実るまで、早くとも5年はかかる。長期的なスパンで栽培をしなきゃならない上、気候変動も重要性が高い。何度も株分けを行い、漸 く爵位あるヤツらに普及できるまでになったが」
「この邸 内での栽培だと、限界があるのよ。多くの吸血鬼に分け与えてあげられるほどの量は栽培できないし、人手も足りないわ」
食後に温かい紅茶を淹れてくださり、更には辛い過去まで話してくれたアラン様。そんなアラン様が信頼し、お仕えしている相手がユシィ様で……オレは、なんだか複雑な気持ちになってしまった。
「ブラッディチェリーがあれば、俺やアランのように基本コレだけで食を賄うことは可能になる……だが、問題は全ての欲を満たせるわけではない点だ」
「現にセオちゃんは、このバカユシィに二度も吸血されているでしょう?ブラッディチェリーは喉の渇きを潤すことができても、魔力の回復量は多くないの」
「バカは余計だ、バカ執事」
確かに、オレはユシィ様に血を啜られてしまった。けれど、あの時……オレが、あのコウモリさんに酷く同情したのは紛れもない事実だ。
ヴァイパイアだと知っていたなら、オレはユシィ様を見捨てていただろうか……その手で人間という種 を傷つけてきたからこそ、ユシィ様は懺悔のように、人と共に生きられる未来を創り出そうと足掻いていらっしゃるのに。
ユシィ様はきっと、まだ愛を知らない。
そしてオレも、アラン様のような愛情の育み方は分からない。
けれど、それでも。
「……どうしてオレがユシィ様と出逢えたのか、その理由はよく分かりました。主 は、どれだけ悪者であろうと善の心ある民を見捨てたりしません……この出逢いはきっと、オレへの召命だと思います」
今はまだ、リヒカ様やルーグス様にユシィ様のことは話せないけれど。いつか、これから先の未来で……人間と吸血鬼にもご加護があるとオレは信じているから。
「オレにできることがあるなら、お二人のお力になりたいです。オレも、お二方が描く未来を見てみたいって強く思いました」
ここまでの話が全部、オレとあの町を貶めるための偽装工作だったとしても。今後、もしもお二方から裏切られる結末が待っていたとしても……その時が来るまでは、尊い夢を見ていたいって思ったんだ。
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