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血塗られた約束 17

善悪は、はっきりつけられない。 ヴァイパイア側の意見をこんなふうに聞くことなんて、今までになかったのだから当たり前だ。 生きていく上での、其々の事情。 (せい)を食すことは、人間だってヴァイパイアと同じようにしていることだ。それが動物か、人かの違いだけで……善悪として捉えてしまうのは、人間側の勝手な理屈だけれども。 吸血されたまま、生き絶えてしまえば良かったのかもしれないなんて。リヒカ様に慰めていただいた時はそう感じていたのに、今は全く違う感情がオレの中に芽生えている。 そして。 「……セオ、ありがとう」 「ユシィ、様」 しっかりとオレの目を見てユシィ様から告げられた感謝の言葉に、オレの心はドクンと素直に反応を示してしまった。 ヴァイパイアだってことを忘れてしまうくらいに、ユシィ様の微笑んだ表情が素敵だったから。銀色の狼に笑いかけていたときと同じ瞳で、甘く見つめられたら戸惑ってしまう。 ユシィ様が持つ不思議な魅力に、オレは振り回されてばかりいるのに……それが、少しだけ心地よく感じてしまうなんて、はしたない。そう頭では思っているのに、オレの頬は無意識のうちに赤く染まっていく。 真っ直ぐに向けられる淡い色の瞳をずっと見ていたいと思うのに、なんだかとても照れ臭くてオレは視線を逸らすけれど。 「……ユシィ、貴方が今考えていること当ててげましょうか?」 ニンマリと笑い、呟いたアラン様はユシィ様の顔を覗き込んでいて。その隙を利用し、オレはティーカップに注がれている紅茶で喉を潤した。  ……清廉(せいれん)な心でいよう、うん。 オレがゆっくりと深呼吸し、気持ちを新たに引き締めた時。 「テメェはいっつもそうやって、何でもかんでも分かったフリしやがって目障りなんだよ」 ユシィ様の表情はアラン様の背中で隠れて、オレからは見えない。でも、オレが聴いても分かるくらいの苛立っている声がする。 「素直じゃないわね、セオちゃんの反応が可愛くて見惚れてたくせに……肘掛けに肘付いて、長ーいあんよを組んでても脳内が不純なことくらい誰でも分かるわ」 「調子乗んな、バカ執事。確かにセオは愛らしいけど、今はそういう話じゃねぇーだろ。テメェが言い出したブラッディチェリーの栽培、セオが協力するっつってんだ。アランからも感謝を伝えてやるのが、礼儀ってもんだろ」 茶化されたことに苛立っているのかと思ったけれど、ユシィ様は冷静で。苦言を呈されたアラン様は、くるっと体勢を整えるとオレに向き直る。 「ごめんなさい。恋が始まる予感がして、嬉しくてついはしゃいでしまったわ……セオちゃん、ご協力感謝いたします」 「あ、いえ、こちらこそです」 ぺこりとお互い頭を下げ、そうしてどちらかともなく微笑んで。一度席を外したアラン様は、両手で抱えられるほどの鉢を持って再度現れたんだ。 「とりあえず、この鉢の苗木をセオちゃんの手で育ててみてあげてほしいの。この子がその町で上手く育てば、気候変動はクリアできることになるから」 「かしこまりました、アラン様……あの、ということは、オレ教会に戻っていいんですか?」 「帰さねぇーなんて言ってねぇーだろ、セオ。お前の体調を考慮した上で、一旦此処に連れてきただけだ。夜明け前には帰してやるから、安心しろ」
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