19 / 43
血塗られた約束 18
……なんと、びっくりだ。
オレはてっきり、もう教会には戻れないのかと思っていたのに。そんなオレの予想をいい意味で裏切ってくれたユシィ様に、オレは深く頭を下げた。
「ありがとうございます。良かったです、本当に……クリスマスも近いですから、教会でのお仕事のことも気になっていましたので」
オレたちにとっては一年の始まり、待降節は大きな意味を持つ。教会では4本のろうそくを飾り、アドベント期間の聖日ごとに点火を増やして。クリスマスが近づいている足音を、目で見て実感できるようにしている。
昨日は、1本目の蝋に灯りが点いた日。
礼典の翌朝に訪れた闇の使者に、修道士を志しているオレが心からの敬意を込めて頭 を垂れているなんて……神様は、ちょっぴり意地悪だ。
清くあろうとすればするほど、オレはユシィ様に溺れてしまうような気がする。出逢いは突然で、穢 されてしまったと本気で思ったのに。こんなに温かな気持ちを何度も与えられてしまうと、手を伸ばして受け取らずにはいられない。
「顔を上げろ、セオ。人間は、何かと理由をつけ祭として祝うのが好きな生き物だからな。お前はこれからも、あの教会で暮らすといい」
「……ユシィ、貴方本気なのね」
ユシィ様の言葉で頭を上げたオレの瞳に、切なそうに微笑むアラン様が映り込む。そして、アラン様の呟きに小さく頷いたユシィ様の姿にオレの胸は高鳴った。
公爵様の風格に似合いすぎるほどの自信に満ち溢れた表情と、甘く揺らぐ瞳。
……この気持ちは、なんだろう。
「あの……差し出がましいお願いで恐縮なのですが、もしご迷惑でなければユシィ様もご同行願えませんか?」
「……は?」
不明確な気持ちに任せて、ポロリと口から言葉が洩れてしまった……と、オレが思ったときにはもう遅くて。
「いやっ、え、えっと……あ、わっ、忘れてくださいっ!!」
一人であわあわと慌てているオレと、ポカーンとしているユシィ様。声を堪え切れていないアラン様は、クスクスと笑っている。
「いいじゃない、行ってきなさいよ。クリスマスなんて吸血鬼が経験できるものじゃないんだから、この世に飽き飽きしてる貴方にはいい機会だわ」
「いや、まぁ……行くのは構わねぇーけど、四六時中一緒にいんのは無理があるだろ。あの教会にはセオのみじゃなく、聖女と神父もいんだから」
アラン様も、ユシィ様も。
オレの言葉をとても前向きに捉えているようで、かなりありがたくはあるけれど。
「あの、ほんとに忘れてください……オレ、何言ってんだろ……すみません、烏滸 がましいこと言っちゃって」
出逢い方が異次元過ぎて、オレの人見知りが何処かへ吹っ飛んでいったからなのか……ユシィ様とアラン様には、変に緊張することなく話せることが嬉しかったのかもしれない。
だからって、自分でもあんなことを口走ってしまうなんて思っていなかったけれど。
「んー、そうねぇ……セオちゃんが毎晩この公爵様に協力できるなら、教会の人間にバレずにユシィと一緒にいられる方法があるけれど……セオちゃん、どうする?」
俯いているオレに、そう言ったのはアラン様だ。なんだか危険な香りがする提案なのに、オレは好奇心を抑え切れず、耳を傾けてしまった。
ともだちにシェアしよう!