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血塗られた約束 20

毎晩、こんなふうに求められてしまったら……オレはきっと、命がいくつあっても足りないと思う。 そもそも、キスというのは愛情表現で。 そこにはいくつもの想いが散りばめられている、はずなんだ。愛おしい相手とするはずの口付けを、オレはどうしてユシィ様と交わしているんだろうと思うけれど。 ……その答えは、簡単だ。 ユシィ様がヴァイパイアで、オレが人間で、そして餌だから。何故だか分からないけれど、オレはヴァイパイアにとってかなり美味しい食べ物らしい。 オレは、(しゅ)にこの身を捧げる予定でいたから。キスとか、ソレ以上の行為を望んだことは未だかつてなかったのに。 吸血しなくてもユシィ様の魔力が回復するのなら、キスくらい我慢しようって……というより、ユシィ様がオレの(あるじ)だから、最初からオレに拒否権は用意されていないんだって。 色んな言い訳を考え、頭の中に浮かべてみても、ユシィ様を感じとろうとするオレの身体はオレの指示を無視しているんだ。 深まるキスで、意識がボーッとする。 吸血された時のような、身体中が一気に沸き上がるみたいな熱は感じないけれど。 「んぁ…っ、ふ」 脳が溶けてしまいそうなほど、ユシィ様の唇が甘くて息ができない。勝手に力は抜けてしまうし、オレの両手は当たり前のようにユシィ様のシャツを掴んで。 「いい子だ、セオ」 「はぁっ…ん、ぅ」 ユシィ様に褒めてもらえたことが、少しだけ嬉しいなんて言えない。でも、オレの耳を掠めて後頭部に回された手の感触が気持ち良くて、オレからは恥ずかしい声が漏れていく。 「ユシ…ぃ、さっ…ぁ」 こんな感覚、今まで知らなかったのに。 ユシィ様の吐息と、僅かな水音が耳に響いてなんだか身体がおかしいんだ……お腹の奥がキュッとする、この感じはなんだろう。 「っ、ン…はぁ、ァ」 息をするのに精一杯で、漏れる声を抑えようとユシィ様に抗う暇もなくて。どのくらいの間、ユシィ様と口付けていたのかは分からないけれど。 ゆっくりと離れていった唇を見つめたオレの頭はまだ、ぼんやりとしたままで。腰と頭を支えられていたはずのオレの身体は、ユシィ様に凭れるようにして縋っていた。 「物欲しそうな顔をして、足りなかったか?」 「え……いや、えっと」 余裕そうな表情でオレを見て笑うユシィ様に、オレは何も言えなかった。そんなオレたちのやり取りを黙って見ていたらしいアラン様は、わざとらしく大きな溜め息を吐く。 「……これは、先が思いやられるわね。セオちゃんには薬草を調合して栄養剤を支給しなきゃ、ユシィより先にセオちゃんが干涸びるわ」 「あの……なんだか、すみません」 ユシィ様の腕に抱かれたまま、オレはアラン様に謝罪する。何に対しての謝りなのかは、自分でも良く分かっていないのに。 「セオちゃんが謝る必要はないのよ、悪いのはぜーんぶユシィなんだから。もしもこの先、セオちゃんが悪いことをしたとしても、それは全てこの公爵様のせいにすればいいわ」 「まぁ、その意見は間違ってねぇーかもな。お前の(あるじ)は俺だ、それだけは何があっても忘れるなよ」 「はい、ユシィ様」 ……やっぱり、オレはユシィ様に溺れてしまうんだろう。

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