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血塗られた約束 24

「えっと、先程まで教会の周りを散歩していたのですが……彼は、そのときに出逢った男の子です。どうやら、孤児のようでしたので共に祈りを……神父様の断りなく、勝手な真似をしてしまい申し訳ございません」 「そうでしたか。この田舎町に、迷い子とは……寒い中、大変でしたね。セオ、貴方の慈悲の心は受け取りました。此処だと冷えますから、二人とも中へお入りなさい」 セオの謝罪に優しく首を振って否定した神父の装いや振る舞いは、正しく司祭といったところだが。銀縁の丸眼鏡とソレを掛けるためのチェーンが、なんとも嘘くさい野郎だと思った。 コツコツと響く靴音の後を俺とセオで追い、案内された部屋に通ると、そこには小さな暖炉があった。暖炉の前にある椅子に腰掛け、ゆったりと茶を啜る人物が一人。 「セオ、すっかり良くなったのね」 ソレは、キレイな顔をして笑う聖女だった。 しかしながら、この聖女はニセモノだ。女の匂いもしなければ、貞潔を守っている匂いもしない。アルが嗅ぎ分けた通り、コイツは男で間違いない。 「リヒカ様の看病と、お祈りのおかげです。あの……リヒカ様とルーグス様に、お願いがございます。彼を、プラウ君にお慈悲を」 「あら、そんなに畏まらなくても……プラウ君、というのね。ようこそ、海辺の教会へ」 キラキラとした笑顔を振り撒き、リヒカと呼ばれた聖女は俺にそう言った。セオの体力を回復させたのはアランだが、この聖女にも看病されていたことに感謝を示すセオの嘘は方便だ。 そんなセオの気遣いを無駄にしないためにも、俺は素気ない挨拶と軽い会釈をし、真っ直ぐに聖女を見る。 「……どうも」 「貴方、とても悲しい眼をしているわね……セオ、プラウ君に優しくしておやりなさい。きっと、セオにとってもいい経験になるでしょうから」 「仰せのままに、リヒカ様」 俺の右隣にいるセオは、嬉しそうに微笑んでいるけれど。それにしてもこの聖女、曲者(くせもの)だ……悲しい眼だなんて、初めて言われた。 テーブルに置かれた書類を片付けながら、神父の方は手と口を動かしていく。 「彼は、孤児だそうだ。体調が良くなったセオが散歩している道中で、プラウ君に出逢ったらしい……つかぬことを伺うが、君は農家の生まれかい?」 「分からない、けど……ソレ、よく言われる。俺がプラウだから、大人は皆そう思うみたいだ。俺は、親の顔も知らない。色んな大人たちに売り飛ばされた。奴隷のように扱われることに耐えられなくて、ここまで来たんだ」 ……嘘、だけど。 プラウは土地を耕す農具だから、それだけで農家の生まれだと判断する人間の思考は愚かだ。 しかしながら、嘘で塗り固められたこの教会には、逆に相応しい解答なのかもしれない。暖炉がある部屋の奥、ドス黒い何かが渦巻く扉……そこに、この教会の核がある。 使役の(からす)、フェクダには引き続き外からの見張りを頼んでおいたものの。(あるじ)の俺が教会内部へと侵入していることを考慮し、フェクダは緊急時以外俺と接触はしないだろう。 「全ては、神の思し召しです。君が此処に辿り着いたことも、セオと出逢ったことも……何かしら、意味のあるものですから。暫くの間は、セオと行動を共にするといいでしょう」

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