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血塗られた約束 26

セオの両手に絡まる、真紅のロザリオ。 一瞬、ふわりと鼻を掠めた薔薇の香りが心地良く、俺は深く息を吸ったけれど。 大丈夫か、と。 そう訊かれるのも当然だ。 吸血鬼は、ロザリオに触れられない。 誰しもがそう思い込んでいるのだろうが、実際には語弊がある。触れられないのではなく、触れたらそれなりに痛手を負う……まぁ、だから触れられないと言われるのかもしれないが。 「大丈夫、なワケねぇーけど……たぶん、セオの持ち物なら大丈夫だと思うから、ソレ、俺も触れてみたい」 一度セオを吸血鬼した時、セオのロザリオはしっかりと腰に巻かれていたはずだ。しかし、それで俺に傷がつくことはなかった。 セオが所有するロザリオであれば、触れても問題ないのかもしれないと。淡い期待を込め、俺はセオからロザリオを手渡してもらった。こんなにしっかりと手に取ったのは初めてで、僅かな重みに感心する。 「どう、ですか?」 「触れると少しピリつくけど、それだけだ。普通のロザリオなら、もっと焼けるような熱さで火傷のように肌が(ただ)れるから……やっぱり、セオの物なら大丈夫なのかもしれない」 心配そうに俺を見るセオを安心させてやるため、俺はありのままを告げた。 セオには、何か特別な力がある。 それを裏付けるような出来事がまた一つ、俺たちの間で起きているのだが。当の本人は俺の反応に安堵したのか、嬉しそうに微笑んで。 「……ソレは、オレの宝物なのです。本物の薔薇を圧縮加工して作ったビーズが使用された、とっても素敵なロザリオなのですよ」 「だから薔薇の香りが強いんだな、すげぇー良い香りだ……けど、そんなに大事なこのロザリオを俺が使っていいのか?」 「もちろんです。元々、オレが今使っているヘマタイトのロザリオとその薔薇のロザリオは、オレと伴に、この教会にやってきたロザリオだったそうです」 「……セオと伴にやってきたって、どういうことだ?」 手渡されたロザリオを腰巻の布に括り付けながらも、俺はセオに訊き返した。 「オレもよく分からないんですけど、16年前……男の子の赤ん坊と、黒と赤のロザリオが入ったクーファンが、この教会の祭壇に置き去りにされていたそうです」 ……つまり、その男児がセオということか。 セオの過去を知らず、俺は孤児の設定で神父や聖女に話をしていたが。どうやら、セオ自身が捨て子だったようだ。 人は、生まれながに罪を背負うと……そう呟いていたセオの言葉を思い出し、コイツが修道士に拘っていた理由を俺はなんとなく理解した。 「何故この教会だったのか、そもそも誰から産まれ落ちた命なのか、正直オレには分かりません……でも、オレに名を与えてくださり、ここまで育ててくれたリヒカ様とルーグス様には、本当に感謝しているのです」 名が少ないことを気にしていたセオの心内は、家族のいない寂しさの表れだったのかもしれないけれど。 今、こうして。 俺の前で微笑んでいるセオは、しっかりと人間の愛情を受け取り真っ直ぐに生きている。 「……神の贈り物、か」 セオをここまで育て上げたのは、間違いなくあの二人なのだろうが。それならば、何故……聖女は、セオに嘘をついているのだろう。 ……絶対に、この教会には闇がある。

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