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血塗られた約束 27

修道服に着替え終わり、改めて聖女モドキとインチキ神父に挨拶をして。セオに教会の中を案内された後、俺はまた礼拝堂へとやって来た。 「今からはミサのお時間ですので、プラウ君はオレの隣にいてください。何も分からないと思いますが、とりあえずは周りの人と同じようにするだけで大丈夫です」 「……分かった」 セオはそう言っているが、俺は既に眠い。 右手に持たされた聖書は重いし、腰にぶら下げたロザリオはジャラジャラとしていて邪魔くさいし。唯一良い点を挙げるとするなら、セオの隣にいられることだけだ。 「毎朝ミサは行われますから、続けていくうちに、きっと心が洗われ、安らぎのお時間になりますよ」 ……安らぎ、安眠時間か。 セオが言う安らぎの時間と俺の時間は意味合いが異なるが、眠気はどうにもならないのだから仕方ない。 そんなことを考えていると、教会の扉が開いた。次々と人々が集まり、チャーチベンチに腰掛けていく。皆、これが日課なのだろう……当たり前のように、当然のことように、この教会へ足を運んでいるのだから。 毎日ミサがあるのは知っていたが、こんな朝から祈りにやってくるなんて馬鹿げている。今此処で、闇の住人の心内は見せられないし語れないけれど。睡魔に耐えている俺の目には、教会にいる町人全員が愚か者に見えた。 愚かだからこそ、祈るのだろうか。 ミサ中はたっぷり眠れると思っていた俺は、どうやら考えが甘かったらしい。 立って歌い、祈り、座って神父の話を聴き、そうして立って歌って祈っての繰り返し。俺の首がメトロノームのようにこくこくとリズムを刻み始める度に、俺はセオに突かれた。 合計何回突かれたのか分からないが、俺はミサに安らぎを感じられず、ただただ過酷な一時間を過ごす羽目になったのだ。 こんな地獄が毎朝やってくることを考えると、この生活、セオのキスだけじゃ割に合わない。吸血行為は避けるとしても、それなりの褒美がいると思うのだが。 眠気に耐え、吐き気に耐え、ミサが終わったと思えば、今度は讃美歌の練習とやらで。町の子供たちと一緒に、教会内でおうたの練習をさせられた。 その後。 一度昼食を摂り、その次は黙想。 黙想の後は読書の時間、そして祈りの時間、奉仕の時間と続き、また祈りの時間へと舞い戻って、夕食……その後、漸く自由時間が与えられたけれど。 食事は、かなり難関だった。 聖女と神父が見ていない隙に俺の分までセオに食べさせ、なんとか難を逃れたが。毎食こんなことをやらなければならないのかと、人間の生活に早くも音を上げそうな俺は、セオのベッドに腰掛け大きく息を吐いた。 「お疲れさまでした、ユシィ様」 長い一日が終わり、俺はプラウの姿から解放された。そんな俺に労いの言葉をかけてくれたセオは、隣に腰掛けると俺の髪に触れ始めて。 「……あの、嫌だったら仰ってくださいね。今日一日、とても頑張ってくださってありがとうごさいました。これは、オレからのお礼の気持ちです」 セオの小さな手で、よしよしと頭を撫でられている俺は、新たな感情をセオから与えられた。 ……なんだこれ、すげぇー気持ちイイ。 今日起きた地獄の時間が報われていくような感覚と、僅かな照れ臭さ。温かなセオの手に、俺の全てが癒されていく。

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