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血塗られた約束 29
【セオside】
ユシィ様と共に教会で生活をし始めて数日、今日はアドベントリースに三本目の火が灯る日。二本目が灯るミサのとき、プラウ君ことユシィ様はオレの隣で爆睡していたけれど。
「今日はきちんと眠らずに見届けられましたね、プラウ君」
聖日のミサが終わり、クリスマスで披露するための讃美歌を子供たちと練習していたプラウ君に、オレはこっそり声を掛けた。
「毎日アホみたいに同じ生活繰り返してんだから、嫌でも慣れる……セオ、無駄話してるとリヒカに怒られるぞ」
聖女様を呼び捨てるところは良くないけれど、そこもプラウ君らしい。リヒカ様もルーグス様も、プラウ君がいる生活を受け入れてくれて、今ではすっかり仲良しさんだ。
「プラウの言う通りね、セオ。二人とも、昼食後にルーグス様のお説教をお聴きになるように」
「……ほらみろ、怒られた」
プラウ君もオレと一緒に注意を受けているのに、ニヤリと笑ってオレを見るプラウ君は可愛い。オレと揃いのカソックを纏い、真紅の薔薇のロザリオを腰から下げていて。
唇からチラリと覗く八重歯も、柔らかくてふわふわの髪も……元の姿に戻ると、この愛らしさが一変してしまうから。
今はオレより歳下のプラウ君と、穏やかに過ごせることが単純に嬉しかった。
ヴァンパイアが、教会で生活するなんて。
最初はどうなることかと思っていたけれど、ユシィ様はすっかり慣れた様子で……この生活に慣れていないのは、どちかというとオレのほうなのではないかと思ってしまうんだ。
落ち着いた昼間があれば、乱れ泣く夜がある。
ユシィ様の魔力を保つために、身を差し出すことは嫌ではないのだけれど。
毎晩、優しく抱き締めてくれるユシィ様の腕に支えられ、少しずつ確実に快楽へと堕ちていく自分が淫らに思えて。羞恥心でいっぱいになって泣いてしまうオレを見て、ユシィ様はいつも満足そうに微笑まれるんだ。
その笑顔が堪らなく素敵で、ドキドキと胸が高鳴る感覚がどんどん強くなっているから。最近ではユシィ様に触れられることを望んでいるようなオレの身体に、心が追いついていなくて困っている。
本当はリヒカ様やルーグス様にご相談したいけれど、ユシィ様のことは話すことすら許されない。こんな気持ちになるなんて、今までになかったことだからか……オレは、これが主 から与えられた罰なのかもしれないと、そんなふうに考えている。
少しでも、ユシィ様のお傍にいたくて。
ユシィ様の声で、名を呼んでいただけることが嬉しくて。けれど、清廉とは無縁な心になっている自分が酷く情けなくて。このままではダメだと、オレは己に喝を入れるのに。
昼食後、プラウ君と二人でルーグス様のありがたいお説教を聴いているはずのオレは、心ここにあらずでぼんやりとしてしまったんだ。
「……セオ?」
心配そうにオレを見るプラウ君は目をパチパチとさせていて、オレは我に返る。オレよりもしっかりと聖書を開き、ルーグス様のお言葉に耳を傾けているプラウ君。
本来なら、教会内で過ごしているだけで吐き気を覚えるくらいに辛いはずの時間なのに。そんな素振り一つ見せることなく、人間の子供として健気にオレの隣で過ごしているユシィ様が、とてつもなく尊い存在に思えてならなかった。
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