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血塗られた約束 30

「セオちゃんっ、会いたかったわ!」 「バカ執事、お前二日前に来たばっかじゃねぇーかよ」 町の人々が寝静まっている夜更けに、騒がしくなったオレの部屋。毎晩この時間にはユシィ様の結界が張られているから、どれだけ騒ごうが喚こうが、室内で起きていることは漏れないし、誰もオレの部屋には寄り付けないんだけれど。 「バカ公爵様のために、わざわざブラッディチェリーを届けに来てあげてるんだから感謝なさい」 食事ができないユシィ様のために、アラン様が二日置き目安でブラッディチェリーと栄養剤、着替えのシャツやらを持ってオレたちの前に現れるから。 その度に、オレはユシィ様とアラン様の痴話喧嘩みたいな会話を聴いている。 「俺のことなんてどうでもいいくせに、テメェはセオを可愛がりたいだけだろうが」 「あら、そんなことないわよ。貴方のことだって、それなりに心配なんだから……私はね、二人を()でに来ているの」 教会に二人も吸血鬼がいるなんて、町の人々が知ったら大騒ぎだ。ユシィ様もアラン様も、本当にブラッディチェリーのみの食事だけで、吸血行動はとらないからいいのだけれど。 こんなにも善良なヴァンパイアがオレの目の前にいて、仲良さそうに喧嘩しているのだから世の中って不思議なことだらけだと思う。 「()でるつもりがあんなら、さっさと帰れ。アランがいるといつまで経っても、セオから魔力奪えねぇーんだよ」 「セオちゃんを優先してちゃーんとステイできるなんて、随分とお利口さんな公爵様になったのね」 「すみません。オレが羞恥心に勝てないばかりに、ユシィ様に我慢を強いることになってしまって」 「いや、セオは悪くないから問題ない。お前の蕩けきった姿、このバカに見せたくないだけだからセオは気にするな」 ……ありがたいやら、恥ずかしいやら。 ユシィ様のお気持ちは素直に嬉しいのに、すぐに恥を感じてしまうオレは何も言えなかった。けれど、オレのそんな態度を見ていたアラン様が、何故だかやたらとニヤけていて。 「あ……そう言えば、外でアルとフェクダが待機中だったんだわ。ユシィ、使役の子たちが寂しがってるから行ってあげてちょうだい」 「……今からか?」 「そうよ、ほら早く」 唐突にアラン様がユシィ様を急かし始めると、ユシィ様は小さなコウモリさんの姿に(なり)を変える。久しぶりに見るユシィ様のキュートなコウモリ姿に、オレは少しだけヴァンパイアの能力を羨ましく思った。 「……行ってくるけど、セオに手出すなよ」 「ハイハイ、仰せのままに」 ケラケラと笑い、部屋の窓を僅かに開けたアラン様は、パタパタと夜空に飛んでいくユシィ様を見送って。 「さてと……やっと邪魔者がいなくなったわね、私はこのときをずっと待っていたの」 そう呟いたアラン様は、ベッドに腰掛けているオレにじわりじわりと近寄ってくる。 「アラン、様?」 どう見ても様子がおかしいアラン様に、オレは声を掛けてみるけれど。アラン様からの返事はなく、オレは狼狽(うろた)えてしまって。 「えっ……」 ぐっと肩を押され、オレはアラン様に押し倒されてしまった。 抵抗してよいものか、オレが無駄に考えている間にも、アラン様の手がオレの両手首を掴んでいく。 「油断したわね、セオちゃん」 そう言ったアラン様は、とても愉しそうにオレを見下ろし微笑んだ。

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