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血塗られた約束 31
「……今、どんな気持ちかしら?」
「アラン、さま?」
無理矢理押さえつけられているわけではないものの、両手首を持たれてしまうと身動きは取れない。真っ直ぐにオレを見つめるアラン様の長い髪が頬に落ち、オレはどうしたらいいのか分からなくて視線を逸らすけれど。
「セオちゃん、素直に答えてちょうだい。私にこうされている今、貴方の中で必死に求めている相手がいるはずだわ」
「それはっ……その、えっと」
ユシィ様がいい、なんて。
こうして見上げるのなら、抱き締められるのなら、その相手は、ユシィ様じゃなきゃ……オレはっ、オレ……どうしよう、ユシィ様。
ここ最近、感じている想いが一気に溢れ出してくるみたいに。アラン様に問われた言葉が、オレの心を騒つかせる。
オレは、男なのに。
ユシィ様だって、同じ性なのに。
それでなくとも、ユシィ様はヴァンパイアで……オレはもう既に、神を冒涜してしまっているのに。この気持ちに名前をつけてしまったら、オレは大罪人確定なのに。
「……ユシィのこと、好きよね?」
抱 いてはいけない想いに気づかないフリをして、必死で目を背けてきたことをアラン様に言い当てられたオレは、無意識のうちに噛んでいた唇をゆっくりと動かしていく。
「っ……アラン、様……どう、して」
「手荒い真似をしてごめんなさい。でも、最近のセオちゃん、とても悩んでいるように見えたから……私、我慢できなくなっちゃって」
そう言いながら、アラン様はオレの身体を起こしてくれた。溢れ落ちそうになった涙をなんとか堪え、オレは本心を口にするため息を吐いて。
「悩んでいるのは、事実です。オレ、怖いんです。自分が自分でなくなるような気がして、ユシィ様もオレも、男なのに……こんな気持ち、初めてで」
「でも、セオちゃんは私の話を軽蔑せずに聞いてくれたじゃない。私が愛した人……ううん、今でも愛している人は私と同じ性別よ?」
「それはっ、アラン様のお話がとても感動的だったからで……永遠の愛は素晴らしいものだと、そう思えたからで」
ブラッディチェリーが実ったのは、アラン様とその想い人、二人が宿した愛があったからこそだ。
けれど。
自分に置き換えてみると、なんだかとてもちっぽけで。愛なんて大そうなことは、まだ語れない気がするのに。
「じゃあ、セオちゃんの心は随分と滑稽なの?ユシィへの恋しい気持ちは、セオちゃんが貶 していい想いなのかしら?」
アラン様に尋ねられたオレは、少しだけ唇を尖らせ子供のように思いを紡ぐ。
「だって、その……オレ、とても淫らではしたない姿をユシィ様の前で晒してしまうのです。それなのに、オレはっ……オレ、ユシィ様に触れられることを強く望んでいて、もうどうにもできなくて」
誰にも言えなかった本音は、醜い感情を露わにする。けれど、アラン様はそんなオレを抱き締めてくれたんだ。
「簡単なことよ、恐れる必要なんてないわ。心よりも先に、身体が正直になってしまっただけ……セオちゃん、ユシィが欲しいんでしょう?」
「そんなっ、そんなの……なんて、淫靡 なっ」
「そうね、本当は心が先に感じるものだから……けど、セオちゃんの場合は仕方ないのよ。ユシィの媚薬、まだセオちゃんの体内に残ったままなんですもの」
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