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血塗られた約束 33

アラン様からほのかに香る薔薇の匂いは、オレの心を落ち着かせる。背中を優しく摩ってくださるアラン様は、オレの悩みを解決するためにユシィ様を部屋から追い出してくれたんだと思った。 ユシィ様を前にしたら、オレは本音を言えないから。ユシィ様には申し訳ないけれど、アラン様の気遣いにオレは救われて。 「……オレ、ユシィ様の笑顔が好きなんです。一見すごく冷たそうな眼をしていらっしゃるのに、優しく微笑まれる時はとても甘い表情で……あの瞳に見つめられてしまうと、胸の高鳴りが止まらなくて」 必死で否定しても、拭い切れない。 ……この淡い気持ちを大切に扱ってもいいのなら、オレはユシィ様を愛したい。 「恋は落ちるもの、そして愛は育むもの……だから、素直な気持ちでユシィに溺れていいのよ、セオちゃん」 そう言って、ふわりと微笑んだアラン様の表情はとても綺麗だったのに。 「……随分と調子に乗ったな、バカ執事」 その声と共に漆黒の煙が上がり、そうして現れたユシィ様はアラン様からオレを引き剥がす。 「ユシィ様っ、いつの間に!?」 「さて、いつだろうな?」 余裕たっぷりでニヤリと笑ったユシィ様に抱えられ、その腕の中に収まったオレは頬を染めてしまう。 やっぱり、オレはユシィ様の腕に抱かれていたいんだって……そう気づいてしまった想いは、もう止められないんだと思うけれど。 「貴方の言いつけを守らなかったこと、きちんと謝るわ……申し訳ございませんでした、公爵様」 普段なら、ユシィ様に口答えしたり、(けな)したりして、ここから二人の言い争いがヒートアップするのに。今日のアラン様はしっかりと非を認め、ユシィ様の前に跪く。 でも、様子がおかしいのはユシィ様も同じだった。オレでも分かるくらいのピリついた空気感、アラン様を見下ろすユシィ様の表情は冷酷で。 「最初からコレを企んで今日此処に来たヤツが、上っ面だけの謝罪のみで許されるとでも?」 アラン様は、何も悪くないのに。 冷たい視線を向けるユシィ様の誤解を解きたくて、オレはユシィ様のシャツを握り声を振り絞る。 「あのっ、ユシィ様……これにはわけがございまして、アラン様はオレの悩みを解決してくださったのです。ですから、ユシィ様が苛立ちを向ける相手はアラン様ではなくっ……ン、ユシぃ…さ、ま」 人が一生懸命に伝えているのに、ユシィ様はそんなオレの耳を甘噛みして。 「俺ではなくアランを庇い、更には(あるじ)に指図するとはな……セオ、俺に苛立ちを向けられる覚悟があっての言葉だと受け取るが、良いのか?」 こんな状況で、今更。 良くないです、なんて言えない。 「……はい、ユシィ様」 オレがそう返事をしながらゆっくりと頷くと、ユシィ様はとても意地悪に微笑んだ。好きだと自覚してしまうと、怪しい笑みにさえ気持ちが揺れ動くけれど。 「セオちゃんっ、ダメよ。今のユシィは危険だわ、また発熱したらどうするの?私が悪いんだから、ユシィに従うのは私だけでいいの」 「随分と仲良く、俺の前で罪を譲り合って愉しいか?もう面倒くせぇーから、お前ら二人とも処罰を受けろ」 「そんなっ、あんまりです!」 「図に乗るなよ、セオ。決めるのは俺だ……この教会での式典、アランも強制参加な」

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