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血塗られた約束 35

頭上で組まれた両手首に力が入るたび、ロザリオのビーズが肌に触れて、ベッドのパイプと擦れる音がする。 それでも、羞恥に塗れる表情を見られまいと、オレは頬に当たる二の腕に頭を預けて顔を背けていたのに。 胸の辺りで遊んでいたユシィ様がいつの間にかオレの顎を掴み、そうして無理矢理視線が交わって。 「……イイ顔、すっげぇー可愛い」 絡み合った目線の先、甘く揺れるアンバー色の瞳にオレの心は一際大きく反応するから。 「ッ、そんな…わけ、ないっ…」 好きだ、と。 そう強く想う心を、なんだか見透かされてしまうような気がして。まだその気持ちを受け入れたばかりのオレは、ユシィ様の言葉を否定するのに。 「俺がどう思おうが俺の勝手だろ、セオ。辱められて悦んでる淫らなお前を、俺は可愛がってやりてぇーの……ほらこっち、もう濡れてる」 「ンン、ふ…はぁっ、ア」 形のいいユシィ様の唇でキスをされたかと思えば、伸ばされた手で性器を握られ息が漏れてしまう。 ユシィ様の言葉遣いが砕けた言い方に変化していて、内心ではかなり安堵しているのに。与えられる快楽の波には逆らえず、オレのモノからはとぷりと蜜が溢れ始めていた。 「や、めッ…んぅ」 「腰揺らして強請るクセに、お前の口は相変わらず素直じゃねぇーな」 「だってぇ…ん、はぁ…」 嫌だとか、やめてとか。 本心は、もうよく分からないのに。 咄嗟に出てくる言葉は、オレの憐れな姿を肯定できないものばかりだ。 けれど、それでも。 「苛立つことが、あるのでしたらっ…ぅ、受け入れます…から、手をっ…解い、て」 オレはユシィ様に縋りたくて、涙を流し懇願した。すると、ユシィ様はオレの頭をふわりと撫でて、流れた涙を唇で掬い上げた後、片手で拘束を外してくれたんだ。 ユシィ様がオレの身体に教え込んだ刺激、ソレに悦んで反応しているのは間違いない。淫らに身を捩り、情けない声を上げて……ユシィ様に触れられることを望むのは、誰でもないオレ自身だけれど。 「……何故、悩みを聞き入れる相手が俺では駄目だった?」 「えっ…それって、ン…あぁっ」 「アランと親しくなるなとは言わねぇーけど、お前が頬を染めて微笑んでいい相手は俺だけだ……気安く他人に触れさせるなよ、お前の(あるじ)は俺だろうが」 オレの性器を片手で包み込んだまま、ゆったりと上下するユシィ様の手。その動きに合わせるように、オレの腰はゆらゆらと揺れていく。 「んぁっ、です…がぁ」 ユシィ様を想っていたから、ユシィ様が好きだから。段々と貴方に染まっていく心と身体がどうにかなってしまいそうで、貴方が欲しくて、それが堪らなく辛かったのです。 なんて。 頭の中では返答をするのに、口から洩れるのは熱い吐息と甘い鳴き声だけで。 「あぁ、やっ…ソレ、だめぇ」 先の方をくちゅくちゅと弄られると、嫌でもソコに意識が向いてしまうのに。 「……お前が溺れるのはただの快楽じゃない、俺だ。俺を呼べ、セオ」 「ゆ、しぃ…さ、まぁッ」 「いい子だ」 恋しかった笑顔と、優しくて甘い声。 「ユシィ、さっ…アッ、ゆ…しぃ」 「お前は、そうやって俺に溺れていろ……縋って泣いて、いつか……その心まで、お前の全てが俺に堕ちればいい」 抱き締められた温もりを、離したくはなくて。オレはもう、ユシィ様の仰る通りに泣きじゃくりながら果てることしかできなかった。
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