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血塗られた約束 36
【ユシィside】
ここ数日、セオがぼんやりすることが多くなった気がしていた。
だが、それは俺に合わせて毎晩の魔力補給にセオか付き合っているからだと。吸血はしていないしろ、睡眠時間が削られているために休憩が足りていないのではないかと……そう、俺は思っていたんだが。
「……ったく、可愛い顔して寝やがって」
アランに悩みを打ち明けていたセオは、なんとも的外れな解答で俺の気を掴んだまま離してはくれない。
有能な使用人の考えは、すぐに察した。
使役のヤツらが、アランを通して俺を呼び出すことなどないからだ。けれど、最近のセオは様子がおかしいこともあり、俺はアランの悪知恵に乗ってやったと云うのに。
俺が蝙蝠 の形 をして部屋を出た後、窓の外枠にぶら下がり暇を潰していたら……アランは好き勝手し始めるし、そうかと思えば、セオが話す事柄は俺のことばかりで。
頬を染めて微笑むセオと、母親面して笑うアランが気に食わなくて、気がつけば俺はアランからセオを引き剥がしていた。
この時点で、俺は既にイラついていたというのに。セオはアランを庇うし、アランはそんなセオに気を遣うしで散々だったことは云うまでもない。
鬱陶しいアランを追い払い、俺の苛立ちを買ったセオにしっかりと罰を受けてもらって。甘くて旨いセオの涙と欲の味を堪能させてもらい、そうして今に至るのだが。
最初から全て聞いていた、と。
行為の最中、本当はそう言ってやりたかった。俺への悩みなら、俺に直接話せば良いことなのに……想いの丈を俺にぶつけることはなく、セオは俺に縋り、甘い声を上げて泣いていた。
快楽に染まる人間の姿は、これまで幾度となく味わってきたというのに。吸血鬼に怯えて顔を引き攣らせていても、媚薬が効き、少し経てば欲が混ざった好意の眼差しを向けてくる人間ばかりだったが、セオは真逆だ。
俺が吸血鬼でも軽蔑せず、普段はとても愛らしく笑いかけるくせに、そこに快楽が混ざると視線を逸らしてしまう。欲には忠実な身体と、無垢なまま穢れることのない心のギャップに、セオの意地らしさが垣間見えて。
愛おしさが募る想いを悪戯に弄び、俺は真紅のロザリオでセオを縛りつけ、拘束して……涙するセオの姿に魅せられ、処罰と云う名で己の嫉妬心を誤魔化していた。
……俺は、セオの全てが俺に堕ちることを心底望んでいるのだろう。
その想いに、気づいていなかったワケじゃない。ただ、確証がない感情を無闇に抱き、人間が好きそうな小難しい理由をつけて気持ちに名をつけるのが面倒だった。
けれど。
セオに向けたアランの助言は、俺にも当てはまるものだ。性別も、種族も、愛の前では無意味だと……そう言い切ったアランの言葉を、俺はこの先忘れることがないだろう。
何度も俺の名を呼び、小さな両手で縋っていたセオに核心を突かれた気がする。
好きとか、嫌いとか。
どうでもいい、面倒だ、と。
今まで見向きもしなかった心に、セオは意図も容易く触れてくる。安らぎと癒しの空気を纏い、闇を包む光のように尊い笑顔で。
吸血鬼であることを忘却したくなるほどに、セオが欲しくて堪らないから。
「......セオ」
俺の腕の中でスヤスヤと眠っているセオの髪を撫で、その寝顔に安堵しながら俺は眠りに就ていった。
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