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血塗られた約束 39
なんとなく気づいていたけれど、リヒカもルーグスもかなり過保護だ。赤子の頃から親代わりとして、二人がセオを育ててきたのだからそうなっても仕方ないのかもしれないが。
歳頃にしては随分と質素で隔離されたライフスタイルのセオを思うと、コイツ一人で外に出すのは気が引けてしまう二人の気持ちも分かる。
ただ、歳頃だからこそ、一人で外の世界に触れられるくらいには育ってほしいと願う親心も理解してやらなくはない。
海辺の教会がある町にいるのは子供と老人ばかりだし、あの町は基本的に自給自足の生活だ。奉仕の時間は畑を耕し作物を植えたり、掃除をしたりと長閑 な時間が流れている。
修道士になることを強く望んでいるセオだが、コイツの知識は偏り過ぎて不憫だ。この歳で信仰心が強いことは感心するけれど、世の中それだけじゃ足りない。
セオの未熟さを理解し、人として成長することを願って。眠らない隣街の雰囲気をたまには味わってほしいけれど、セオを一人にはできない……そんな二人の思いを叶えるとなると、俺が着いていくのは必然だったのだろう。
けれど、リヒカとルーグスの気持ちを汲んでいるのはどうやら俺だけのようだ。
「オレ、そんなに頼りないのでしょうか?」
隣街へ向かう船の中、俺の横で小さく呟いたセオは背中を丸めて俯いているから。
「頼りないんじゃなくて、アイツらが心配し過ぎなだけ。セオが本当に頼りにできないヤツなら、最初から買い出しなんて頼まねぇーだろ」
しょんぼりしているセオは可愛いけれど、できればいつもの愛らしい笑顔を見せてほしい。常に教会内で過ごしているセオにとって、このおつかいは良い息抜きになるはずだ。
そう思い、セオより僅かに小さな手で自信喪失しているヤツの頭を撫でてやると。
「……ユシィ様、ありがとうございます」
余裕のなさが滲み出るように、セオは俺をプラウと呼ばず、弱々しい声で感謝を呟いた。
「オレね、ずっと教会で生活しているから……極たまにこうして隣街まで足を運ぶと、知らないことがたくさんあってドキドキしてしまうんです」
俺には分からない、セオの気持ち。
それを知りたいと思う今の俺も、セオと同じようにドキドキしているのだろうか。擬音語だけでは読めない感情を探るため、俺はセオを見る。
「ドキドキって、どんな感情?」
俺の問いに困惑しつつも、セオは少し考えてから話し出して。
「……えっと、緊張と不安と、期待と驚き、とか……そういった感情が一気に湧き上がって、心臓がいっぱい動く感じがするんです。ドキドキって、一つの感情じゃ伝えられないかもしれませんね」
そう、応えてくれた。
「じゃあ、俺もドキドキしてんだと思う。俺、流れてる水すげぇー苦手だからさ……船乗る瞬間とか、本当はかなり怖かった」
吸血鬼は、穢れを落とすことが可能な流水に弱い……と云うより、本能的に近寄らない。だがしかし、そうも言っていられない今は大人しく乗船している。
「真っ昼間からこの姿で町中彷徨くとか考えらんねぇーし、面倒この上ないけど……でも、セオと一緒なら楽しいかもって思ってる」
「プラウ、君」
「だから、セオだけじゃない。俺も一緒、おんなじだ」
俺の言葉にコクリと頷いたセオは、俺が好きな笑顔で微笑んでくれた。
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