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血塗られた約束 40
ルーグスから借りた通行証で隣町へと入ると、そこは人で溢れていた。
商業が盛んな町だと、ひと目見ればすぐに分かる風景に、まだ溶け込めていないセオの姿。いくつもの店が並ぶ通りに恐る恐る進んでいくセオの背中を見つめ、俺は思わず笑ってしまった。
「セオ、緊張し過ぎ」
「だって、こんなにたくさんの人がいるんですよっ!?」
「だからって、そんなに小さくなる必要ねぇーだろ。堂々としとけよ、自信なさそうに歩いてると変な壺とか買わされるぞ」
腰にロザリオは巻いてあるものの、俺もセオも今日はカソックの上からコートを纏っている。そのため、側から見た俺たちはその辺の子供と変わらない姿だから。
見るからに押しに弱そうなコイツは、おそらくいいカモになる。ある意味で、セオは商人から好かれそうだ。純粋無垢で騙されやすそうだし、断る術も知らないだろうから。
「壺なんて、そんなっ……さすがのオレでも、不必要な物の購入などいたしませんっ!」
俺の発言が気に食わなかったらしいセオは、そう言って反論するけれど。いつまでこの威勢の良さが保てるのか、俺はそっと見守ってやろうと思った。
少しだけセオの機嫌を損ねた気がするが、到着した時の弱々しい雰囲気よりかはマシだ。
背筋を伸ばして歩いていくセオの後ろ姿を眺めつつ、俺はセオが目移りせずに目的地へと向かえるのか見張っている。
ミサの後、ルーグスから託されたのは通行証だけではない。セオがきちんと買い物ができたら、褒美にアフタヌーンティーが楽しめる店に連れて行ってやってほしいと、俺はインチキ神父から依頼された。
帰宅は、夜の船便に間に合えば良いらしい。
質素な暮らしに文句一ついうことなく、信仰の道を歩むセオへのちょっとしたサプライズ。そんなセオと寝食を共にしている俺も、セオのように熱心に主 に祈りを捧げているからと。
そして、なにより。
セオより俺の方が歳の割にしっかりしているという理由で、俺はセオに同行している。
何百年も生きている吸血鬼と、産まれて16年の男児を比較されても正直困りものだが。
毎日、日差しに耐え、吐き気に耐え、眠気に耐えて聖書を読み耽 り、祈り続けてきた結果……二人からの信用を勝ち取り、こうして疑いの目を向けられることなくセオと外出できている事実は悦ばしいことだけれど。
「ユシィ様っ、とっても綺麗なお店がありますよ!」
後ろを歩く俺の手を引き、名を間違えながらはしゃぐセオ。その視線の先には、数多くの香水瓶が並んでいた。
「すげぇーキレイだな、教会のステンドグラスみたいだ」
「確かに、色鮮やかで美しいですね……ユシィ様からそのようなお言葉が聞けるなんて、喜ばしい限りです」
心底嬉しそうな顔をして微笑むセオは、名の間違いに気づいていないのだろう。リヒカもルーグスもいない今、わざわざ訂正させることもないのだが。
「お前がそんだけ笑えるならそれでいいけど、先に買い出ししねぇーとな」
セオにはそう声を掛けてやり、やんわりと軌道を修正して。無事に目的を果たせるよう、俺はセオの手を取り歩き出す。
それにしても、本当に多くの店がある街だ。
活気あるというか、忙しないというか……行き交う人々とすれ違うたび、香ってくる下品な臭いに俺は顔を顰めた。
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