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血塗られた約束 43

【セオside】 「……セオ、順調に進んでいるかしら?」 昨日は様々なことがあったけれど、ユシィ様のおかげで門限までに無事に帰宅できたオレは、買い出しを済ませた翌日の今日、教会のキッチンをお借りしてクッキー作りに取り掛かっている。 そんなオレの様子を見に来てくださったリヒカ様は、優しい微笑みでオレとプラウ君を見つめていて。 「はい、リヒカ様……あとは焼き上がりを待つのみなのですが、プラウ君は……えっと、慣れない作業でお疲れのようで」 オレの肩に頭を預けて眠っているプラウ君を起こさないよう、なるべく小さな声でオレはリヒカ様の問いに答えた。 「ふふ、昨日からずっと気を張っていたから疲れたのでしょう。プラウは見かけに寄らず頑張り屋さんだから、手が空いてホッとしたのね」 「お菓子作りは初めてだと、プラウ君から窺っていたのですが……計量もスムーズでしたし、攪拌(かくはん)もとても上手でした」 食することのない(しな)をわざわざ作る必要はないのだから、ユシィ様が調理をしたことがないのは当たり前なのだけれど。 日頃からアラン様の様子を近くで見ているからなのか、初めてとは思えないほどの腕前だったユシィ様。 「プラウは物覚えが良いし、要領も悪くないもの。読み書きも問題なくできているし、歌声は澄んでいてとても綺麗……口は悪いけれど、内面から溢れ出る(ひん)の良さに加えて、信仰心もあるなんて不思議ね」 気持ち良さそうな寝息を立て眠っているプラウ君に聞かせてあげたいくらい、リヒカ様からのお褒めのお言葉は暖かい。 オレが評価されたわけじゃないのに、ユシィ様の毎日の努力を買っていただけたようで、オレまで嬉しくなってしまう。素性は隠しているけれど、やっぱりユシィ様を悪と捉える人はいないんだって思ったから。 でも。 「プラウは、本当に孤児なのかしら……もしかしたら、産まれはかなり高貴なお家柄だったりして」 ……鋭い、リヒカ様。 崩れない笑顔で言われてしまうと、全てを見抜かれているのか、冗談なのか、リヒカ様の考えがまったく読めなくて。どんな顔をしたらいいのか迷っている間にも、リヒカ様は話を進めていく。 「そんな複雑そうな顔をしなくても、例え話のようなものだからセオは気にしないでいいの。ただ、プラウが祈っている姿を見ているとね、なんだか過去を悔やんでいるように思えてならないから」 そう語るリヒカ様は瞳を閉じ、深く息を吸う。キッチンに充満するクッキーの甘い香り、それと反比例するような切ない感情を抱え、オレは無意識にプラウ君の髪を撫でていた。 オレが産まれるずっと前から、ユシィ様はこの世界に存在している。けれど、ヴァンパイアの過去は、その半生は、想像もつかない。 今こうして、人間の男の子に姿を変えてまでオレの隣にいるユシィ様は、一体どのようにこれまでの月日を過ごしていたんだろうか。 もっと知りたい、なんて。 欲を出してはいけないと分かっているのに、止められない気持ちにオレは無理矢理蓋をする。 「……セオ、貴方は神の贈り物。私たちの元に貴方がやって来たように、セオの前にプラウが現れたことも……神のお導きだと、私は信じているわ」 「リヒカ、様……」 柔らかな笑顔を向けられ、オレは思わずリヒカ様の名を呟いていた。

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