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血塗られた約束 46

「ッ、はぁ…んっ」 オレの首に手を回し、唇を赤く染める液体を舐め上げたユシィ様。射抜かれるようなアンバー色の瞳に捕らえられ、身体の奥がキュッと反応を示す。 いつもより細くなった瞳孔と、口元を飾る鋭い牙。全てを捧げたくなってしまう微笑みに溺れてしまいそうで、胸が苦しくて。オレの目尻に溜まった涙が頬に流れた時、ガラス越しに映る雪は音を立てずに降り積もっていた。 「お前は、こんな時間から俺を煽り倒してどうしたいんだ?」 「そんなっ、つもりでは……」 先手を打ち、オレにキスをしてきたのはユシィ様の方なのに。朝のお祈りの時間に相応しくないやり取りを繰り広げるオレたちを、漆黒の煙が包み込んでいって。 一瞬、目の前が闇に覆われた後。 オレを抱き締めていたのはユシィ様ではなく、オレより小さなプラウ君だった。 「……セオの血は、すげぇー美味いよ。甘くて香り高いし、本当は今すぐにでも喰らいつきたくて堪らない」 少しだけ背伸びをして、オレの首に両腕を回したままそう呟いたプラウ君。その表情は見えないけれど、ユシィ様が配慮してくださったことは理解できて。 取り乱したオレに付き合い、時間を割いてくれていることも。万が一、リヒカ様たちがやって来ても、問題にならないように姿を変えてくださったことも。 その気遣いを向けられるのは、オレだけであってほしいと思う心を伝えられずに、オレはプラウ君の声を聞く。 「でもさ、俺たち約束しただろ……吸血はしないって、その代わりにキスすんのは了承してくれるって」 プラウ君としてオレに語り掛けてくれるユシィ様の言葉に、段々と心が落ち着きを取り戻していくから。 「それは、仰る通りです……けど、オレである理由が分からないのです」 誰でもいい、と。 そんな返答は聴きたくないのに、オレは答えを求めてしまうけれど。 「俺は、吸血鬼だから。今はまだ、セオが持つ沢山の感情に一つずつ寄り添ってやることはできないよ」 予想外の返事に、オレは何も言えないのに。 オレの首筋に触れるプラウ君の髪は、ふわふわしていて少しくすぐったくて。 「俺たちの(しゅ)は本来、人間に情など湧かない。俺さ、セオ以外の人間はどれも喰い殺してきたんだ……だから、大切にしたいと思えたのは本当にセオだけでさ」 「ユシィ、さま」 「名を教えたのも、生かしたのも、無理矢理誓願させたのもお前が初めて。(やしき)に連れ帰ったのも、セオだけだし……なんなら、俺のベッドで眠ったヤツはお前以外いないよ」 「……ウソ」 「嘘ついても、意味ねぇーだろ?」 ウソじゃなくて、真実だと。 それを裏付けるように、ユシィ様はオレだけだと繰り返してくださって。くすぐったい感情がじんわりと心の中で広がり、オレはプラウ君を抱き締める。 「ありがとう、ございます……ユシィ様」 心ない獣に、抱き締められて安堵しているのは誰でもないオレ自身なのに。 「セオ、感謝すんのは俺の方だ。いつもありがとう……それと、今更だけど戸惑わせてごめんな」 「オレの方こそ、取り乱してしまって申し訳ありませんでした」 なんだか物凄く気恥ずかしくなってきて、オレとプラウ君はお互いの額を合わせて笑い合う。 そうして。 最後の白いキャンドルがアドベントリースに灯る頃、オレはユシィ様に自分の想いを伝えようと心に決めたんだ。

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