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血塗られた約束 47

雪降る扉がそっと開き、真っ白な世界に朝陽が差して。オレの視界に映る景色は、神秘的な白銀の町。 「すげぇー、真っ白だ」 そこに。 真っ黒のローブ姿でフードを被ったプラウ君が一人、ぽつんと佇んでいる。 その背中を眺めながら、こんな運命もあるのだと。誰もが神に与えられた愛することの意味を、オレはユシィ様と二人で考えていけたらいいと……そんなことを、思っていたら。 「……なぁ、セオ。ずっと気になってたんだけどさ、どうして人間は悪魔からのプレゼントを欲しがるんだ?」 白と黒のコントラストでプラウ君が一際輝いている姿に見惚れていたオレに、ユシィ様はそう尋ねられて。言葉の意味を考え、オレはプラウ君に訊き返す。 「それは……えっと、サンタクロースのことですか?」 「それ、なんで悪魔の色した爺さんからのプレゼントを受け取ってはしゃぐんだよ?」 「んーと、サンタクロースのモデルは、慈悲深い司教様だったと伝えられています。貧しい娘が住む家の暖炉にこっそりと金貨を投げ込み、幸せな結婚へと導いたという話からサンタクロースは生まれたそうです」 (しゅ)の降誕と共に、人々に広まったクリスマスの文化は様々だから。オレは、知り得る知識をプラウ君に伝えていく。 「サンタクロースが、煙突から入ってくるのも、暖炉のそばの靴下にプレゼントを入れるのも、このお話を元にしたもののようです」 白銀世界に溶け込んでいたプラウ君は、オレの話にしっかりと耳を傾けてくれて、オレの隣にやってくる。 「その後、子供たちに向けたイベント事として司教様のお話は受け継がれていきます。司教様の祭服を着たサンタクロースと、悪魔役の赤装束を着た二人組で町を回り、良い子には司教様役の方からプレゼントを、悪い子は悪魔役の方が持つ袋に詰められ地獄へ行くと脅していたようです」 「なんだそれ、俺らより人間たちが考えることの方が悪じゃねぇーか」 悪の獣、ヴァンパイアよりも人間の思考の方が悪だと論されてしまうと、オレは苦笑いしかできないけれど。 プラウ君の発言はごもっともだと内心思いつつ、オレは話を継続していく。 「一応、続きがあるのですよ。悪い子も、良い子になるとお約束し、司教様役の方からプレゼントを受け取って幸せなひとときを……って、結末ですから」 「ふーん、でもその話だとサンタクロースは司教なワケだろ?けど、今じゃ悪魔の爺さんだけになってんのはなんでだ?」 「サンタクロースは元々司教様ですが、色々な地域の文化と願いが混ざり合い、今では悪魔役の装いのみが定着してサンタクロースとして広まっているようですね」 「なるほどな……んじゃ、この町に昔からいる緑の爺さんは?」 人間の文化や風習にも興味を示してくれるユシィ様の問い掛けが嬉しくて、オレは疑問に答えようと口を開く。 「ファーザークリスマスは、司教様のサンタクロースではありません。彼もサンタクロースのように人々にプレゼントを配りますが、彼は冬至のお祭りに太陽の復活と春の訪れを祝う妖精なので、元来二人は似て非なる者ですよ」 「ありがとう、長年の謎がやっと解けた。でもなんか、人間ってすげぇー都合の良い解釈するんだな……けど、今日は少しだけ俺も浮かれてる感じがする」 オレの話を興味深く聞いていたプラウ君は、そう言ってはにかんでくれた。

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