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血塗られた約束 48
辺りが白く映るのは、外だけじゃない。
今日の教会内は、神の栄光を現す真っ白な装飾に包まれる。主 の誕生により、暗闇だった世界に光が灯されたことを祝して。
クリスマスイヴの今日は、信者でなくとも聖堂へと足を運び易い雰囲気にはなっているけれど。
「……ん、アランが来たな」
ミサの準備のため、町の子供たちと一緒に控え室で正装に着替えていた時。小さな声でそう呟いたプラウ君は、チラリとオレを見る。
何時ぞやの処罰で、ユシィ様から今日のミサに出席するよう告げられていたアラン様。普段はミサに参加することのない民でも、クリスマスイヴの祝福ムードを味わおうと教会へやって来る人々は多いから。
ヴァンパイアのアラン様がそこに紛れ込んでいても、ユシィ様のように人間を襲うことがなければ問題はないと思う。
けれど、アラン様はまだオレたちの前に姿を見せていないのにも関わらず、プラウ君はアラン様の気配に気づいたことが不思議だった。
ちょっとしたことで、思い知る。
ユシィ様は、魔の領域の住人なのだと。
こうしてオレたちと同じ格好をしていても、同じように微笑んでいても、同じ気持ちでいたとしても……種族の違いを感じてしまうのは、仕方のないことだ。
「さあ、クリスマスミサが始まりますよ。皆で共に祝福をし、愛に溢れた夜を過ごしましょう」
控え室にやって来たルーグス様の一声で、子供たちから照れ笑いが漏れる。少しだけ気恥ずかしい感情が入り混じる子供たちの姿を、とても優しい眼差しで見つめていたのはプラウ君だった。
その表情に心が揺れ動き、オレの中で眠る愛情を向ける相手を知る……神様は、お赦しくださらないかもしれないけれど。オレは、ユシィ様のお傍にいたいから。
ミサが終わったら、オレはユシィ様に告白をしようと心に決めている。誰よりも尊い存在になる得る人の背中を追いかけ、オレは聖堂へと向かった。
真っ白に包まれたクリスマスミサは、いつもよりもずっと華やかだ。静かな教会内に、リヒカ様のパイプオルガンの演奏が響き渡って。
小さなパイプオルガンでも、荘厳 な雰囲気が醸し出されていく音色は今日という日を祝福するのに相応しいと思った。
温かみのあるオルガンの音に耳を澄ませ、リラックスした表情でオレの隣に佇むプラウ君はすごく綺麗だった。
ルーグス様のありがたいお話を、眠ることなく聞き入るプラウ君が誇らしかった。リヒカ様が指揮する讃美歌も、プラウ君の澄み切った歌声に町人からの盛大な拍手が送られていた。
オレとプラウ君とで作ったクッキーは、子供たちに大人気だった。パンや葡萄酒での晩餐会では、食してるフリをしてこっそりオレに全ての品を押し付けてくるプラウ君が可愛かった。
そんなプラウ君を、いや……ユシィ様の姿を、一番奥のチャーチベンチに腰掛け、切なげな表情でご覧になっていたのはアラン様だった。
町の民と同化するためか、アラン様はコートを羽織ったままで。それでも、一つ一つの気品溢れる振る舞いは隠し切れていないように思えて。
ユシィ様も、アラン様も。
どのようなお気持ちで今、この場にいるのだろうかと……誰にも言えない心内を神だけに晒け出しているオレは、今までにないくらい浮かれた気分で主 の降誕祭に参列していたのかもしれない。
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