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血塗られた約束 49
「とっても神秘的な時間を体験できて、本当によかったわ……ありがとう、ユシィ、セオちゃん」
ミサが終わった夜のこと。
オレの部屋で、オレを囲むのはヴァンパイアのお二人。公爵様のユシィ様と、その執事のアラン様なんだけれど。
「なんで今更お前が泣き始めてんだよ、意味わかんねぇーわ」
罰として参列したクリスマスミサが思っていた以上に感動的だったらしいアラン様は、ポロポロと涙を流しているんだ。
そんなアラン様に呆れ、溜め息を吐いたのはユシィ様で……やっぱり、ユシィ様はお優しいお方なのだと思い、クスッと笑ってしまったのはオレだった。
「……セオ、何がそんなに可笑しい?」
三者三様。
泣く者に、呆れる者、そして笑う者。
罰として与えられたことでも、こうしてアラン様のお心を照らしているのはユシィ様だから。
オレは感じたままを伝えたくて、ユシィ様とアラン様に視線を向けて話し出す。
「アラン様の寂しさに寄り添い、皆で共に降誕祭を祝えるように、ユシィ様がアラン様を気遣ったんだなぁって……そう思うと、なんだかすごく幸せだなと思いまして」
仕える主 がお邸にいないアラン様は、事あるごとに教会へとやって来ていたから。最愛の人を想うことしかできないアラン様を気の毒に感じたのだろうと、オレは勝手な解釈をしながら笑みを漏らすけれど。
「別に、セオが思うほど俺はアランのことなど気にしていない」
オレから視線を逸らし、面白くなさそうなお顔をするユシィ様。オレでも分かるくらいに可愛い反応をされてしまうと、オレは益々笑顔になってしまうのに。
「あら、セオちゃんの前だからってなに気取ってんのよ?」
「気取ってねぇーよ、本心だ」
「嘘おっしゃい。こういうときは、素直にありがたいお言葉を受け取っておけばいいの。セオちゃんのおかげで、心優しい公爵様になれて良かったわね、ユシィ?」
「バカ執事、喋んな」
いつも通りのお二人、変わらないやり取りで進む会話はとても賑やかだ。アラン様の微笑みも、ユシィ様の不機嫌そうな表情も。気がついたら当たり前になりつつあるこの空気感が、オレの心を温めてくれる。
リヒカ様もルーグス様も、オレを家族ように迎え入れてくれたけれど。幼い頃から感じていた心の奥底での孤独に、ユシィ様とアラン様は簡単に踏み込んで手を差し伸べてくれた。
まるで。
オレに新たな居場所を示すように、あり得ない世界を次々と見せてくれたヴァンパイアのお二人。
「こんなに心温まるクリスマスは、始めてです。ユシィ様、アラン様……本当に、ありがとうございます」
この時が幸せ過ぎて、失いたくないとさえ思うから。緩んだ頬はそのままに、オレはふにゃふにゃの笑顔で二人に感謝の意を述べた。
「こちらこそ、私たちの願いを受け入れてくれたこと……セオちゃんには、本当に感謝しているわ。ユシィのことも、ブラッディチェリーの栽培も、順調そうでなにより」
「そう思うなら、さっさと帰れ」
……ああ言えば、こう言うんだから。
「さて、私がここに居座るとバカユシィの機嫌が悪いままになっちゃうからそろそろお暇 しようかしら。セオちゃん、メリークリスマス!」
「あ、えっ……えっと、メリークリスマスです、アラン様」
オレがそう言った瞬間、アラン様はぶわっとした煙に包まれ、慌ただしく消えてしまったんだ。
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