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聖なる夜に

アラン様が立ち去ったあと、ユシィ様に手を引かれてオレが連れられて来た場所は、静まり返った礼拝堂だった。 ミサの雰囲気とは全く違う、どこか寂しげな此処は闇に包まれているけれど……これはおそらく、ユシィ様の結界が礼拝堂内に張り巡らされている印なのだろう。 「外は朝と同じように真っ白だな、セオ」 冷える身体を温めるように、背後からオレを抱くユシィ様は窓の外に視線を移しているようで。囁かれた言葉に小さく頷いたオレは、緊張感を隠すように声を出していく。 「クリスマスの日に、こうして雪が降り積もることをホワイトクリスマスというそうですよ」 「……それはまた、安易な名付けだ。人間が好む文化や風習はよく分からんものばかりだが、今宵は一つ、ソレに従ってみようか」 公爵様モードのユシィ様にそう言われ、オレの思考は意味を理解しようと試みる。でも、式典は無事に終了し、もうなにも礼拝堂で行う儀式的なものは残っていなくて。 「セオ、俺が良いと言うまで瞳を閉じておけ」 真剣に考え込み出したけれど、ユシィ様から声をかけられ、オレは大人しく目を閉じた。 ミサの後、ユシィ様に告白しようと決めてはいたものの。想いを伝えるタイミングを見計らっていたら、言えず終いになってしまった心を隠していると、ユシィ様の指先が首筋に触れていく感覚がした。 「……もう、()いぞ」 その合図でゆっくりと瞼を開けたオレは、窓に反射する自分の姿を目に入れて。 「ユシィ様、あのっ……コレ」 そう声を出しながら、オレは思わず振り返りユシィ様を見つめた。 「クリスマスプレゼント、気に入った?」 驚いているオレと、微笑むユシィ様。 アラベスクに包まれたクロスのデザインはゴールドの素材、その中に真紅のビーズが埋め込まれたペンダント……とても素敵な贈り物過ぎて、オレはユシィ様の問いにこくこくと頷くだけで精一杯なのに。 「セオの宝物のロザリオと同じように、薔薇を加工したビーズが中に埋まっている。元々は俺の物だったトップに、アランが手を加えて作り上げた唯一無二のペンダントだ」 嬉しくて、嬉しくて。 言葉が出てこないのに、その代わりと言わんばかりに溢れ出す涙が頬を伝っていく。 そんなオレを抱き寄せ、親指で優しく涙を拭ってくれたユシィ様はとびきり甘い笑顔を向けてくれるから。 産まれて初めて、クリスマスプレゼントを頂いたこと。感謝の想いとか、驚きや嬉しさとか、ユシィ様に伝えたい感情は一つじゃないけれど。 今、真っ先に告げたい気持ちを声に乗せるため、オレは口を開いていくんだ。 「大好きです、ユシィ様」 クリスマスの今日だけは、種族を越えて。 ユシィ様の腕の中にいられることが、オレにとっては何よりの幸福だと思えたから。 「セオ」 「んっ…」 重なった唇から伝わる想いに、胸がいっぱいになる。この先の未来が、闇より深い漆黒に染まっても。オレは、ユシィ様と伴に生きていきたいと思えたのに。 ユシィ様やアラン様が犯した罪の重さを、ヴァイパイアが忌み嫌われる本当の理由を、この時のオレは軽率に扱っていた。けれど……そのことに気がつくのは、もう少し先のことで。 ユシィ様の腕に抱かれ、頂戴したペンダントをキュッと握り締めて。幸せいっぱいのクリスマスを過ごしたオレには、後に悲劇が待ち構えているなんて、知る由もなかったんだ。 fin

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