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第13話

「俺はトラゴス・ビケット・オーデー!  RPGから来た最強の魔王、お前の宿敵!」 「はあ……」  俺が全力で自己紹介しても、ジーヴルは記憶を取り戻さない。 「トラゴスに相手にされなさすぎて、ショックの余り記憶喪失したんじゃない?  だから魔法を使うコツとトラゴスのことだけすっかり忘れてるのかも」  追いかけてきたルルが心配そうに言った。 「そんな個人的な問題で済めばまだマシですわ。  王家に恨みを持つ者の犯行だった場合、事態はややこしくなりますわよ」  ジョリーも考え込んでいる。  ジーヴルはルルとジョリーを交互に見た後、俺の方を向いてけげんな顔をした。 「君は誰だ? 私が知らない生徒など居るはずがない。不審者か貴様」  ……え? 「なっ……俺から一度でも視線を外すと、ジーヴルの記憶がリセットされるのか!?」 「気安く名を呼ぶな、不審者! まず名を名乗れ」 「トラゴス・ビケット・オーデーだ!  お前にしつこく求婚されて迷惑してた魔王の!」 「知らぬ。王家に取り入るつもりなら、もう少しマシな嘘をつくのだな」 「あ~、話が通じない~!!」  苛立ちで暴れる俺を押しのけて、カルムがジーヴルに忠告した。 「これが攻撃にしろ、体調不良にしろ。  異変は学園生活で始まったのだから、原因が分かるまで学校をお休みして王城に戻っているべき。  医療もセキュリティも王城に勝るところは無い」 「そうだな。カルムの言う通りだ。  じいや、帰城の準備を手伝ってくれ」  ジーヴルは手を叩くと、どこからともなく現れたじいやと共に教室を出て行った。 「トラゴス、一緒に行ってあげなよ」  アンジェニューが肩をつついてくる。 「勿論だ。  ジーヴルに魔法と記憶が戻らなければ、俺は退学する……いや、命を絶つ」  俺が宣言すると、アンジェニューは感激の声をあげた。 「トラゴス、そんなにジーヴルのことを……」 「そうだ、魔法を使えなくなって弱ったジーヴルを恐怖させたところで意味が無いからな!  絶対に原因を突き止めてやる!」  こんなにも俺を恐れない人間は、RPG世界にも居なかった。  魔法も記憶も失ってそれきり、なんて許さない。  俺の野望にとことん付き合ってもらうぞ、ジーヴル! 「凄まじい執着ですわ」 「愛だね」  外野がごちゃごちゃ言っているが、どうでもいい。 「僕の預言能力で、少し調べてみるよ」  カルムが魔法陣の描かれた魔導書を広げ、神からの言葉を受け取ってくれる。  少し念じた後、カルムはぽつりとつぶやいた。 「……四次元的に考えろ……」 「それが神からのお告げか」 「ああ。ジーヴルを助けてあげられるよう祈ってるよ、トラゴス」  こうして俺とトラゴスは、以前の訪問から間を空けずして、王城に来ることになった。  ジーヴルの危機にも、ルミエルとブランシュは冷静だった。  さすがは一国の王と王妃だ。 「来てくれたのね、トラゴスくん。  あなたも辛いでしょう、ジーヴルに忘れられてしまうなんて」 「心配してくれるのは嬉しいが、無理してジーヴルのそばに居る必要は無いからね」  二人とも、俺に気をつかってくれている。  息子が訳の分からない状態になって、不安なのはルミエルとブランシュの方だろうに。   「厚かましくも付いてきてしまって、すみません。  しかし俺は自分のためにも、ジーヴルを治すお手伝いがしたいのです。  そのために、しばらくお城に滞在することをお許しください」  俺が頼むと、二人とも快諾してくれた。 「それはもちろんよ」 「気付いたことがあれば、何でも報告してくれ」  王家もジーヴルの異変を解明するために、全力を尽くしてはいた。  医師に見せても分からない。  道具や薬を用いた攻撃ならば、王家直属の腕利きな医者に見抜けないはずがない。  捜査官がジーヴルの行動範囲全てを調べたが、それでも分からない。  案の定の八方塞がりだ。  やはり頼れるのはこの魔王トラゴスというわけか。 「四次元的、か」  カルムから聞いたお告げのことを考える。  四次元……目には見えない、もう一つの要素……。  見落としがちなそこに、ジーヴルの異変につながるヒントがある……。  その時、ひらめいた。  犯人はきっと、「あの中」に居る!  早速ジーヴルのじいやに頼んで、魔法の水晶でルルに連絡をとってもらう。  犯人を比較的よく知る人物は、他でもないルルだからだ。  次の日。  王城にある闘技場に、俺とジーヴル、ルミエルとブランシュが待機する。  ルルから聞いた情報をメモしたものを見ていると、やっと犯人候補が闘技場に入ってきた。  ルルと護衛のアンジェニューが、三人の男女を連れてくる。  一人目は、砂魔法使いのデゼール。  きりっとした顔つきの、メイド服に身を包んだ女性。  近隣の伯爵に仕えているらしい。  二人目は、幻覚魔法使いのヴェルティージュ。  金髪碧眼で線の細い、内気そうな美少年。  俺たちと同い年の学生だ。  三人目は、磁力魔法使いのティレ。  筋骨隆々とした、仏頂面の青年。  仕事は騎士だ。   「王子、この人たちに見覚えは?」  一応ジーヴルに確認しておく。 「デゼール殿は、社交パーティーで伯爵に付き従っているところを見かけた。  つい一週間前のことだ。  ヴェルティージュは、馬術部の大会で私に次いで二位をとった選手だな。  ティレも、その馬術大会で警護をしていたはずだ。  馬術大会は、十日前のことだ」 「本当にそれだけか?」 「どういう意味だ」  俺の問いかけに、ジーヴルはいまいちピンときていないらしい。  無理もない。   「覚えているのは印象的な事柄だけ……だったな。  この乙女ゲームの各ルートに関する情報は」  そこまで言うと、ジーヴルはまさか、といった表情をした。  うむ、ジーヴルも何やら察したようだな。  では、そろそろ核心といこうか。

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