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第14話

「今まで経験してきたルートの記憶を誰よりも保持しているキャラクターが居る。  犯人候補を探すにあたり、彼女の協力をあおいだ」  促すと、ルルが挙手した。 「私、このゲームのヒロインであるルル・プリエが証言します。  デゼールさん、ヴェルティージュさん、ティレさんに私を加えた四人が、この乙女ゲームのジーヴルルートで描かれた、ジーヴルさんが集めた伴侶候補でした」 「というわけだ」  ……というか、ジーヴルの守備範囲広すぎないか?  正統派ヒロインのルル、クールなメイドのデゼール、儚げ美少年ヴェルティージュ、寡黙イケメンのティレって。  プラス、この魔王トラゴスだろう?  見事にタイプがバラバラではないか。  まあ、そんなことはどうでもいい。  四次元的に考えろ、とはつまり。  この乙女ゲーム世界で多層的に蓄積した「複数のルート分岐」や「多数のエンディング」といった、目には見えないが確かに存在する世界を推理のヒントにしろ、というお告げだったのだ。    あんな抽象的なお告げから、そこまでの考えに至るとは。  俺、さては天才か? 「私が王子様の魔法を封印した犯人だと疑っているのですか?」  砂魔法使いのデゼールが、こちらに厳しい目を向けた。 「ああ。  ジーヴルは自身のルートで、君たちのうちの誰かに刺されるほどの経験をしているそうだ。  色恋関係でジーヴルに恨みを抱いていても、おかしくはない。  伴侶候補である俺だけがジーヴルに認識されなくなっているのも、動機に恋愛が絡んでいるならば納得はいく」  俺が答えると、デゼールと磁力魔法使いのティレは深いため息をついた。 「……馬鹿馬鹿しい」 「王子様のルートに居た私たちならともかく……今の私たちには、王子様に対して特別な感情などありません」 「僕も、心当たりは無いよ……。  そういう物騒なのは苦手……」  ヴェルティージュが物憂げに言う。 「しかし三人とも、ここ最近ジーヴルに接近して魔法を掛けるチャンスがあったこともまた事実だ。  社交パーティーや馬術大会がそれだ。  遅効性の魔法などいくらでも存在するから、日付云々は言い訳にならんぞ」  俺だって考えなしに犯人候補を集めた訳ではないのだ。  反論ならいくらでも出来る。 「はいはい、素朴な疑問!  砂魔法も幻覚魔法も磁力魔法も、魔法の封印とか記憶の操作と関係あるとは思えないけど」  アンジェニューが口を挟んだ。  まあ、この場にいた全員が思っていたことだろう。  ……正直、俺も未だにそう思っているし。 「そのことで再確認しておくが、ルルも各ルートの記憶が完全にあるわけではないのだな?」  俺が問うと、ルルがうなずく。 「うん。攻略の有利になりすぎる情報は、エンディングを迎えた時点で消されてる」 「つまり、ライバルキャラがどんな攻撃をしてきたか……なんて記憶は真っ先に消去の対象ということだな」  そう、そこなのだ。  この闘技場で解決しなくてはならないことは!  俺はラスボスらしく高笑いして、デゼール、ヴェルティージュ、ティレに指を突きつけた。 「それでは推理タイムだ!  そこの三人!  全員まとめて、俺にかかってこい!」 「え!?」  三人はもちろん、周囲も絶句している。  まあ、この恐るべき魔王トラゴスに宣戦布告されれば当然の反応だろう。 「安心しろ、手加減はする」 「それは推理……なの……!?」  ヴェルティージュはおろおろしている。  しかしデゼールとティレは腹をくくったようだった。 「無駄だとは思いますが、仕方ありませんね。  やるからには、このデゼールの無実を証明してくださいね。トラゴスさん」 「……行くぞ」   「この魔王トラゴスと戦えることを光栄に思うが良い!」  俺はさっそく、魔法陣を複数展開して、炎を射出した。  しかし炎は俺の操作に反して、三人を避けるように逸れてしまう。  見れば、ティレが展開した魔法陣が三人を守っていた。 「炎は反磁性の物質……」  俺とティレの声が重なった。  炎のような反磁性の物質は、磁力に弾かれてしまう。 「ならば、これはどうだ!?」  俺が魔法の出力を上げ、高温の炎の渦で三人を包み込んだ。  ティレの磁力魔法は、魔法陣が磁石のような働きをしているに違いない。  しかし磁石は一定の温度、いわゆるキュリー温度まで熱すると、磁力を失うのだ。   「っ……さっそく俺の磁力の弱点に気付くとはな」  ティレも俺の意図を悟ったらしい。  彼の魔法陣は加熱されて光を失い、炎が三人に迫りつつある。  その時デゼールが、大きな魔法陣を展開した。  ずっと念を込めていたものが、やっと完成したのだ。 「反撃の時間だ!」  地面いっぱいに広がった魔法陣から、競技場に大量の砂があふれてくる。  砂が集まって人型を形成する……ゴーレムというやつだ。  ゴーレムたちが、寄ってたかって俺を蹴りつけてきた。  走ってかわすが、砂に足をとられてしまう。  思い切って靴を脱ぎ捨てると、山羊に似た構造の足のおかげで多少は走りやすくなった。  しかし、靴に比べればマシという程度だ。  俺がゴーレムに気を取られて魔法陣を維持する手を緩めたうちに、ティレが魔法陣を立て直し、三人を包んでいた炎は弾かれてしまった。    さらに、ティレが砂鉄で作ったナイフをゴーレムが飛ばしてくるという連携プレイまで始めやがった。  この「推理」……一筋縄ではいかなさそうだ!

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