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【番外編】百夜と寿家(おまけ)※R18

 志千(しち)の実家にやってきて、数日が経過していた。  連日観光にでかけるのも疲労が溜まるため、今日は志千とふたり、縁側で茶を飲んだり、本を読んだりしてゆっくりと過ごす予定だった。  家には女中が数名いるのみで、家族は出払っている。父と兄は仕事、弟妹は学校、祖父母と母は観劇だ。    昼食を食べたあと、庭を散策していると──  母屋の裏あたりに建っている土蔵の前で、志千はいきなり百夜(ももや)の肩を抱き寄せ、内扉の鍵を開けて中に連れ込んだ。  蔵内には木棚が並び、呉服屋の商品が整然と保管されている。 「よし、中から落とし錠かけときゃ大丈夫だろ」 「……ちょっと待て。なにが起こった。ここはなんだ」 「なにって、蔵だけど?」  それは、見ればわかる。  だが言いたいことはたくさんある。 「なぜ鍵をかけた」 「兄貴は夜まで帰らねえと思うけど、念のためな」 「そうじゃなくて、ここでなにする気だ」 「母屋じゃ女中が出入りするから、おまえに触れないだろ」 「布団も、なにもない」 「うん、だから、立ったままできることしような」  立ってできることとは。  一瞬疑問が浮かんだが、これまでのあれこれを思いだすと、だいたい最後までできる。  というより、志千ならやる。  「……東京に帰るまで我慢するんじゃなかったのか」 「あと一週間もあるんだぜ!? 離れてるならともかくさぁ、おまえがずっと隣にいるのに、無理だって。生殺しじゃん。俺がどんな気持ちでおまえの風呂あがり姿とか、髪を結ってやってるときのうなじとか見てると思ってんだよ」 「そんな気で見ていたのか……。最後にもうひとつ、質問に答えろ」 「おう、なんでも訊け」  どこに隠していたのか、光沢のある布地を懐から取りだしている志千に向かって、尋ねた。 「その服は?」  「南京町で買った民族衣装だけど?」 「いつの間に買っていたんだ……」  あのとき「百夜に似合いそう」と言っていた衣装である。  紺地に銀の刺繍模様が入り、きらびやかで美しくはあるのだが──  その中でも、左右にある腰から足首にかけての切れ込み(スリット)がとくに深いものを、わざわざ厳選している気がする。 「志千は、なぜ俺にいろんな服を着せたがるんだ」 「だっておまえを眺めるのが好きなんだもん。質問はもう終わりだよな?」  要は、どうしてもこの衣装を着せたくてこっそり購入したうえ、わざわざ蔵の合鍵を持ちだして連れ込んだらしい。 「あのぴったりとした作りじゃ、さすがに女物は無理だぞ」 「大丈夫、男物だから」  そう言いながら、嬉々として百夜を着替えさせているが、なにかがおかしい。  支那料理屋の給仕が同じ形の服を着ていたが、この光沢地の下に白い洋袴(ズボン)のようなものを着用していた気がする。  それなのに、志千は素足のまま着せようとしている。 「絶対、この下にもう一枚あっただろう!?」 「俺はどうしてもこの横の切れ込みに手を入れたいんだよ!! 生脚で!!」  あまりに真剣な顔でそう言われてしまい、返す言葉がなくなってしまった。 「……わかった、もう好きにしろ」 「やった!」  壁際に立たせれ、後ろに背を預ける。正面に志千がきて向かい合った。  左右ともに腰から足首まで深く切れ込みの入った隙間に、大きな手が滑り込んできた。  百夜は下着をつけないので、当然その下は素肌のみだ。 「百夜の脚、白くて綺麗だよな。はー、すべすべ。何時間でも撫でられそ」  顔は百夜の首筋あたりに埋め、髪の匂いを嗅ぎながら、幸せそうに言う。 「誰よりも格好良いはずの、兄のこんな姿を見たら、妹たちはどう思うんだろうな……」 「それは反則だろ! 家族の話はやめろよ、萎えるから!」  文句を言いながらも、手は止めない。  腿の裏、脚の付け根まで、丹念にさすられる。  下はなにも穿いていないのに、大事なところにはまだ触れずあえて避けている。  黙ってされるがままになっていると、志千がふと動きをとめた。  服の下をまさぐるのを中断し、両手で百夜の頬を包み込んで尋ねてくる。 「百夜、もしかして嫌?」 「嫌じゃないが……」 「不満そうな顔してる」  じっと見下ろしてくる視線を上目遣いで睨み返し、拗ねた口調で訴えた。 「……脚ばかり触っていないで、ちゃんと口づけしろ、馬鹿」 「ああ、ごめんな、がっつきすぎた。したかった?」 「……うん」  素直に答えて目を閉じると、大事なものに触れるような優しい接吻が落ちてきた。  何度か唇を合わせたあと、柔らかい舌が侵入してくる。頬を包まれたまま、息が切れるまで必死に受け入れた。 「っ……はぁ……」  互いの唾液が伝う唇をようやく離したところで──  百夜が背にしている壁の上方に空いた格子窓から、足音が聞こえてきた。  続いて扉を開け、なにかを探したり運んだりする物音。 「志千、外に人がいる……」 「隣の蔵が食糧庫だから。声をだしたら筒抜けだな。ちゃんと我慢して?」  志千が百夜にひざまずく恰好で、床に膝をついた。  ふたたび服の隙間に手を入れて、片脚を軽くあげられる。  裸足の爪先にちゅっと唇をつけ、掴んだ足首からその先、ふくらはぎから膝にかけて、音を立てながら下を這わせ、肌を吸われる。  同時に腿の裏側を掌全体でさすりながら、指は強弱をつけてやわやわと皮膚をなぞる。  それから百夜の足首を捕まえ、上にぐいっと持ちあげた。  横の切込みから片脚が滑りでて、白肌が露わになる。さらにその隙間から、脚のあいだに顔を埋めてきた。 「手以外も入れるじゃないか……」 「そりゃあな」  すでに液体の滲んでいる百夜の先端を口に含む。  志千の舌の感触が柔らかくて、熱い。  下から上までぬらっと裏筋を舐めあげられ、全身が小さく痺れるような感覚に陥った。    この数日間、我慢していたのは志千だけではない。  日中は一緒に過ごしているのに夜の寝床は別室で、触れたい欲求は募っていた。 「っ……!!」  だから、あっという間に吐きだしてしまった。  片脚で立たされているせいでよけいにがくがくと体は震える。  志千は百夜のだしたものを飲み込み、指についたぶんまでぺろっと舐めたあと、小さな紙片を取りだした。  中に入っていたのはオブラートに包まれた白い粉だ。  百夜の口に指を入れ、しばらく口腔内をすりすりとさすったりして弄んだあと、謎の粉を置いた。 「これ、舌にのせてて。飲むなよ」 「ひゃんだ、こえ」 「乾燥ぬめり薬みたいなやつ。唾液でふやかして使うらしい」  こんなものまで用意しているとは、準備万端すぎる。  完全に家族が出払う機会を狙った計画的連れ込みだ。 「ここ、ぷっくりしてる。可愛い」 「っ……! ん、ふっ……!!」  ただでさえ、達したばかりなのに。  服の上から胸の突起を摘まれ、つるっとした生地がこすれて、直接触れられるよりも敏感に感じてしまう。 「そろそろいいかな。ほら、だして」  オブラートごと溶けた薬が舌先から零れて、志千の差しだした手の上にとろとろと垂れた。  今度は百夜の片脚を、膝が胸につくくらいあげさせ、露出した最奥にぬめり薬を塗り込む。  指が一本、二本と増えていく。  ぬめり薬と絡まって、抵抗なくなかに入り込んでくる。  一番気持ちいいところを指先で圧迫するように擦られ、両手で自分の口を押さえた。 「ん、んん…………っ!!」  必死で耐えているのに、首や耳に接吻を落とされ、甘い声で囁かれる。 「百夜、ここ、好きだろ? 気持ちい?」  その声を聞かされると、もう駄目だ。  二度目の白濁を放って、外に聞こえないよう、抑えた声で訴えた。 「ん、あっ、立ってるの、むり……!!」 「もうちょっと我慢して」 「やだ、立てない、志千、もうっ」 「じゃ、つかまって」  腰が砕けて、ふにゃふにゃになって、志千の首に両手をまわし、すべての体重を預けて抱きついた。 「そのまましがみついてていいから。入るよ?」  余裕ぶっているが、相当我慢していたらしい。  志千のものは大きく膨張していて、いまにもはちきれそうに熱を持っていた。  その先端から溢れている液と、自身の奥底から伝う薬だか唾液だかわからないものが混じり、ぬぷっと水音を立てて押し入ってくる。 「ひ、ぁ……!!」  指とはぜんぜん違う質量の圧迫感に、快楽がまとわりつく。  片脚はまだ床についているとはいえ、ほとんど爪先立ちで、自分の体重のせいでいつもより深く抉られる。  こんなにして、声を我慢しろとは。 「……ぅ、う……はっ……ぁ……!」  一生懸命抑えていると、よけいに気持ちよさで頭がいっぱいになる。  志千に抱かれ、貫かれていることしか考えられなくなる。 「すごいな、きゅうきゅう締めてくる。俺の、欲しかった?」 「ん………」 「もっと深くしよっか」  唯一地面についていた片脚も持ちあげられ、完全に志千に抱きかかえられた。  少し揺さぶるだけで互いの腰が打ちつけられるような体勢だ。  もっとも感じるところを小刻みにとんとんと圧迫され、体をすべて委ねているから快感を逃がすこともできない。 「あっ、や、こんなの、こえ、でる──」 「じゃあ、口づけしよ? 両手ふさがってるから、百夜からして」 「ふ、ぅん……」  首に腕をまわしながら、必死に唇を求める。  口内を舌で満たされ、掻きまわされながら、最奥を突かれ続けて、何度も絶頂に達した。  *** 「……あんなところであんなに激しくしたら、ばれるだろう。なに考えてるんだ」 「えー、最後のほう、おまえからねだってたじゃん。壁に手ついて、腰を突きだして、泣きながら『もっとして』って、めちゃくちゃ可愛かっ──」 「うるさい、具体的に言うな」  結局、三回もした。  途中で蔵を開けられたりはしなかったが、ちゃんと声を抑えられていたか、もはやわからない。  あきらかに早すぎる風呂を焚いてもらって入り、今こうやって志千の部屋で腰が立たずに寝込んでいるのも、どう考えても不審だ。 「ま、大丈夫だろ──」 「あのう、志千坊ちゃん」  控えめに襖の向こうから呼びかけられて、志千が生まれる前から家にいるという、年配の女中が顔をだした。 「よろしければ客室のお布団、毎晩こちらに敷きましょうか。そのう、蔵は、九弥(かずや)坊ちゃ……若旦那さまに見つかったら、叱られますよ」  まったく大丈夫じゃなかったし、ものすごく気を遣われている。  あの兄なら笑顔で静かに怒ってきそうで、かえって怖い。 「……やっぱり東京に戻るまで我慢しろ」 「えー!? 待合茶屋でもだめか!?」 「地元にいるあいだはあきらめろ」  駄々をこねる志千を突き放してそっぽを向くが──  大好きな恋人にいざ求められたら、どんな場所だとしても拒否できないのだろうと、百夜はひそかに降参したのだった。

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