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第6話

静まり返った部屋で、今起きたことをうつろうつろ整理する。 天使は、高らかに教えてくれた。 ここは天使と王族の誓いの場だということ。 小鬼どころか人間さえ入れない禁足地であること。自分はそこを荒らして、一世一代の日を無かったことにしてしまったこと。 「…………、……?」 数分前までいつもと変わらない日常だった。 ……それが、ものの数分で絶望に変化した。 何か、心の大事な部分がまだ事実に追いついていない。 途端、天使の異常に美しい笑顔がフラッシュバックして、身体の震えが酷くなった。 夜空の月は追い打ちをかけるように満ちている。風もない静かな夜。 「…………」 ……どうやら僕は、とんでもないことをしてしまったらしい。 ……逃げようか。 あの窓から逃げて、どこか森の奥で……。 もうすぐ川が凍る季節だ。だれにも見つからないように身を投げて、この世界から消えてしまえば。 「…………」 「…………」 「…………」 僕はそのまま、床の溝を見つめた。頭を上げる気力もなく、何も意味をなさない溝を見つめた。  何時間もそうして──実際には、それは数秒のことだったと思うけれど──いきなり、固く閉ざされていた窓がガタン!と音を立て、勝手に開いた。 驚いて肩を震わせ視線をあげると、そこには見知らぬ少女がいた。 「あ……」 直感的に正体が分かって口元を押さえる。 少女は慣れたようすで長いはしごを外へおろし、パッとこちらを振り返って口角を上げた。 「……フン。小鬼よ。お前に虫けら同然の扱いを受け一時天界へ帰界したが、気が変わった」 その顔立ちは、今しがた去っていった天使と寸分違わずに瓜二つだった。 少女──否、天使は、先ほどとはうってかわって翼もなく、光を放たず、屈託ない人間の姿でにこにこ笑っている。 「あの王子……オリバーはなかなか美しい。私はあの人間と、天使としてではなく人間の少女として愛を育むことにしよう」 そうして微笑んだ少女は、やっぱりとても美しかった。 (愛を育む……って、それは……) 「王子の近くであれば、お前を監視出来るからな。ふ……お前の処刑される光景を見るのが今から楽しみだ」 少女はくるくるとワンピースを踊らせ回った。少し下から、カン、カン……と誰かがはしごを登ってくる音がする。 「王子の登場だ。私はまた後日、運命的な出逢いを彼と果たそう。それでは前座は頼んだぞ、小鬼」

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