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第7話

大きな影が窓から現れた。 (……!!王子だ!!) 条件反射で部屋の隅に身をすべらせた。見わたせば天使はすっかり消えていなくなっている。 ギシ、ギシと革靴の歩く音がする。王子の低い声が「天使さま、お迎えに上がりました」とささやいた。 (………………わ、ぁ) 物語の世界でしか見たことのなかった美しい王子がここにいる。こんな状況なのに、少し胸が高鳴ってしまう。 早く出て、姿を現さなければいけないのに。まだ時間の経たない傷がピリと痛む。 天使は言った。醜い自分のせいで婚姻が台無しになったことを、王子に自白しろと。さもなければこの傷が一生僕を苦しめるだろうと。 それに、天使は僕のことを監視するつもりだ。逃げ道はないのだろう。早くこの身を王子に晒さなくては。 そう頭で分かっているものの、足が動かない。震えながらつばを飲み込む。 「……天使さま。そこに、おられますか?」 ふと目が合った。心臓が跳び跳ねる。しかし、王子からは暗闇にいる僕が見えていないようだ。形のよい眉をひそめこちらを覗いた後、うつむいて黙ってしまった。 鬱屈とした表情で何か考え込んでいる。その姿があまりに悲しそうで、僕は自責の念に刈られた。 (僕は王子様にこんな顔をさせてしまっている) (早く、暗闇から出なくちゃ…) 殺していた息をゆっくりと落ち着かせて身体に力を入れる。 カタン、と控えめに床を鳴らす。 (……えいっ!どうせ死は免れないんだ!) 大きく足を踏み出して。ゴブリンはとうとう、王子の前にその身を晒した。 「……………!!!!!」 ガタン!と今度ははっきり音が鳴った。 王子の伏せたまぶたが、ゆっくりと開かれた。

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