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第11話
「…………」
オリバーは数秒黙った後、グウェンの手に自らの手を重ねた。
「……!!」
ゆっくり、握りしめる。
シルクの白い手袋が冷たい。
「あ……の……」
「大丈夫。あなたは処されないから」
「……そんな。僕は国を破壊するような罪を犯しました。じきに首をはねられるでしょう」
「……なんとかする」
「……王子、せんえつながら僕は……、この国に生まれ落ちて長いです。花が咲いて枯れ落ちるのを、もう何十回と見ました。
卑しい小鬼の身ですが……ここシュワルダ王国の法のことは理解しているつもりでございます」
「僕だって理解しているよ。……そりゃあまだ、王子になって日は浅いけどさ……」
「す、すみません……。あのでも、
僕が上位種族である、ペガサスやエルフ
だったら、このような大罪も事情聴取のも
と許されていたでしょうが、」
「……君はゴブリンだから即刻処されると」
「…………」
それはこの国の残酷な仕組みであった。
天使の国といえば聞こえは良いが、シュワルダの倫理システムは他国よりはるかにおくれを取っていた。
世界にはゴブリンの権利が守られている国が
多数派で、シュワルダのようにゴブリンへの差別・暴力が黙認されているのは今どきありえない。
たしかにゴブリンは人を襲う。
……『手術』を行わなければ。
近年の研究で、手術により暴力性の遺伝子を取り除けることが発覚してからは、多くの国でゴブリンへの手術が義務化された。
落ち着いたゴブリンは忠義に厚く体力に優れ、現在立派な労働力として脈々と地位を上げつつある。
……にもかかわらず、この国ではいまだに森の奥にゴブリンを追いやっている。
「さっきの……ダレンさんの反応で分かりました。やっぱり、ゴブリンが守られるなんてことはこの先も無いでしょう……」
「…………」
オリバーは何も言えなかった。
ただ、ずっと目の前のゴブリンの手を握りしめ続けていた。
「…………」
グウェンも、どぎまぎしながら唾を飲み込む。やっぱりだめだ。こんな状況なのに、触れられている所が熱い。
控えめに息をつき、目線をあちこちにずらす。
(だって……ほんとに、王子様がいる。ずっと本で読んでいた……、そんな人が今、僕の手を……こんな手なのに、握っているのは、なんでだろう…?あぁ……っ)
「……ダレン、まだ下で何かやっているのかな」
そういえば、先程からあのつんけんした声が聞こえてくる。
「よぉダレン!お城で年中護衛はくたびれるだろ、今夜ぐらい騒ごうぜ!」
どうも年上の騎士に絡まれているらしい。
「すいませんス。俺ァ今からオリバー王子と話があるんで。今度にしてくれッス」
「話ぃ?いくら王子の御守りと名高いお前でも今行っちゃまずいだろ」
「はァ?」
「さっきは緊急事態だったから塔へ上がらせたが、本来あそこは王族以外入っちゃならねぇんだぞ」
「……あ……」
頭をガシガシと掻いてうなる。
失態に気付き塔を見上げると、青いカーテンからオリバーが見える。
長年の仲を信じ、目で訴えかける。
(やらかした。今夜はそっちに行けそうにねェ。また明日作戦会議するぞ)
(了解。今夜は塔から出ない)
オリバーも目くばせして答えた。
まだまだ宴会の音頭は止まない。
木の葉のざわめきの中、人々は笑いさざめく。
暗い部屋で、オリバーとグウェンはうつむいたまま、それでもずっと手を繋いでいた。
まるで、犯した罪を慰め合うかのように。
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