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塔の上、ふたり

グウェンは王子に抱き締められながら眠った。あたたかい腕がグウェンの背中を優しくさすってきた。 オリバーは何も喋らなかった。静かな眼でグウェンが眠るのを見ながら数回瞬きを繰り返し寝息についた。腕はグウェンに回したまま離さない。 塔は深い夜のとばりを被り数千年前と変わらない威厳のまま眠った。 ああ、今夜は奇跡が起こるはずだった。王子と天使がその生を結ぶはずだった、数百年に一度の美しい夜。数多の人々の想いが結晶のように集まっていた。  それなのにエラーは起こった。 これ以上ない尊さを持つ夜に狙いをさだめたかのように。 まだ、禍々しい者の仕組んだことならよかった。シュワルダ王国に恨みを持った者が婚姻の失敗を狙って仕向けたことならば。 けれど二人が出逢ったことはまったくの偶然なのだ。 たまたま兄が亡くなり突如天使との婚姻の役目を背負わされた気弱な青年と、たまたま塔を見つけて住み着いた孤独なゴブリン。 二人の邂逅は何を意味するのか。 これは天使降臨以上の奇跡なのだろうか。 まだ夜が明けるのはしばらく先のようだ。 寄り添い合う二人は意識もないのにお互いを手繰り寄せ、そうしないと死んでしまうかのようにくっついている。夢の中でも抱き合っているのだろう。どちらともなく息を溢し、微笑んでいる。 「お…う、じ……ふふ」 「グウェン……」 先程までの騒動などなかったかのようにゆったりとした時間が流れる。 静かになった塔の下では、しげみに立った美しい少女が睨むように小窓を見つめていた。 「まさか、王子も本気であのような化け物に惚れたわけではないだろう。あんな、私の身代わりにあんな醜いものを抱くなんて…」 少女、いや天使はくるりと踵を返し、街の方へと姿を消していった。

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