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第14話 匠

 あいつと暮らしていた頃は誰もマンションに寄せ付けた事はなかったから、客用の寝具はない。昨日は上原は酔ってたし、俺も面倒だったからベッドに放り投げたが、今日はそうはいかない。  後で布団レンタル屋に電話するか。    簡単に鍋の材料を商店街で仕入れマンションに戻ると、上原がもじもじしている。  「ん、どうした?」  「あの、その主任。今日なんですけど、こっ、ここのリビングのソファーで寝ますから」  最後は早口で一気に言い切った。このソファは二人掛けだ。いくら上原が体が小さいとはいえ大の大人が無理だろう。  下から見上げるようにしてこちらを見るその顔を見ると本当に意地悪がしたくなる。駄目だ、布団はレンタルするつもりだったのに。  「え?俺なんかとシェアするより、こんな狭いソファーの方がましってことか?」  そんな意味は無い事わかってる、こんなの言い掛かりだ。俺が言われたら論破する。でもこの仔犬には無理だ。  ほら顔色が変わった。ああ、久々に楽しい。  「ち、違います、主任がゆっくりと。あの、出張でお疲れなのに、そっ、その」  今にも泣きそうだ、こいつは本当に社会人か?あまりにも反応が幼くて可愛い。  「俺は気にもならないんだか」  さて、これで逃げられない。どうするかな上原。  「えっ、し、主任が問題ないと仰るのでしたら」  「俺は問題ないと言っているが」  上原の言葉の最後は消え入りそうだった。今は下を向いて悪戯を見つけられた子供のようだ。  少し俺も調子に乗り過ぎた。レンタル布団屋に電話するかと、携帯でレンタル布団と検索していたら上原がチラチラこっちを見ている。  「あの、主任?怒ってらっしゃらないですよね?」  ん?何の話しだ?ああ、こいつの中では叱られた事になってるんだ。今、布団をレンタルしたら怒ってそうしたと思うな、携帯をテーブルに戻して上原を見る。  「飯にするか」と、笑いかける。ちょっと優しくしてやっても良いかもしれない。

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