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第19話 蓮

 やっと自宅に帰れた。不動産屋に寄って鍵を受け取り自分のアパートへと帰る。駅で降りて南口に出る。つい北口に目がいってしまう。  主任は月曜日から出張に行ってしまった、お礼もまだきちんと言えてないと気になる。  久々の自宅の空気がなぜか寂しい。木下の家では馬鹿騒ぎして楽しかったけれど、主任と二人で食べた食事の時の暖かいような、苦しくなるような気持が忘れらない。  ひとりで食事するのがこんなにつまらないと今まで知らなかった。コンビニ弁当ってこんなに単調な味だったっか?俺の部屋ってこんなにガランとしていた?  何だか変な感じ。こういう時は、寝るに限る。そう、疲れてんるんだ俺。さっさとシャワー浴びる。いつもの自分の使ってるボディーソープの匂いがきつくて嫌になる。  主任がそばに来ると木蓮の良い香りがした、懐かしいような寂しいような気持になる。  あれ、さっきから俺、主任の事ばっかり考えていないか?  一体、どうしたんだろう。  布団に潜って、目を閉じる。明日は主任に借りてたお金も返さなきゃいけない。  暖かくなると自然に眠くなる。大きくあくびをするとゆっくりと夢の世界に落ちていった。  ……背中をなぞる指にざわざわと身体が震える。  優しく包みこまれる腰。目を開けると、主任が微笑んでいる。「どうしてここに?」と、聞く俺の口を塞ぐ柔らかいキス。  ああ、気持ちが良い。主任の体に手をまわす。首に手を回して主任の首筋に強く吸い付くように口付ける。  「つっ」主任が一瞬顔をしかめて、それから微笑む。ああ、この顔が好きなんだと思うと泣きたくなる。主任に触られている、それだけでイきそうになる。  主任も同じ気持ちなのか腰に当たるその部分が反応している。きゅっと、握り込まれて俺は達してしまった。気持ちが溢れて仕方ない。この木蓮の香りに包まれたかったんだ。  「主任、好きです」気がついたら告白していた。  最悪、なんであんな夢をみたのだろう。  主任に抱かれる夢を見るとか、それで本当に達するとか。下着を汚したのは、中坊の時以来だ。  朝から自分の夢があまりにも具体的で、体にその手の感覚まで残っているようで。変な気持ちになった。  「主任ごめんなさい」  小さい声で誰もいない部屋で謝った。

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