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第20話 匠

   月曜日、出張は10時に東京駅を出れば間に合う。一度出社して、真っすぐ向かえば良いと先週までは思っていたが。  朝、会社に電話して大阪支社へと直接向かう。どうしても上原に会いたくなかった。先送りしても何も解決しないのはわかっている。上原は何も覚えていないようだが、俺は自分の気持ちに気がついてしまった。  床にぺたんと座り込む姿に、酔って視点の合わない目に。さらさらと滑るような白すぎる肌に。いや、理由なんてどうでも良い。  本当は入社してきた時から気になっていた。自分の気持ちに気がつかないふりをしていた。俺の前で尻尾を振る上原を可愛いと思った時から。  「はあ」ため息が出る。拾ってしまったあの時には、もうすでに手放したくなかったのだ。先送りしたところで、結局は解決はしない。  月曜日と火曜日を出張でつぶして、水曜日いつものように会社に早めに行く。この時間だと電車も空いているし、上原に会う事も無い。会社に行けば仕事があるから何とか乗り越えられる。表情を隠す自信くらいはある。  いつもの車両に乗り込みいつもの席に座って目を閉じる。  電車のドアが閉まるその瞬間に走りこんできた影ががあった。学生か?危ないなと思って目をやるとその先に一番会いたくなかった相手が笑ってた。  「主任、おはようございます!いつもこんなに早かったんですか?」  嬉しそうに揺れる尻尾が見える。ああ、もうダメだ。  「おはよう。珍しいな、こんなに早く」  「あ、朝から仕事少し片付けて、午前中に抜けて銀行に行かせてもらおうと思って。良いですか?」  それは課長に聞け。俺はお前のメンターだが、許可出すのは俺じゃ無い。そう切り捨てるはずが相変わらずの様子にふっと笑ってしまった。その瞬間になぜか上原は下を向いてしまった。  どうしのだろう。

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