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第27話 蓮
昼食は社食で急いで済ませデスクに戻る。デスク辺りには誰もいない。出かける前に顧客データを確認しておきたかった。あれ、丸山電機のデータが見当たらない。
「上原、まだ昼飯食ってないのか?」
主任が課長との打ち合わせを終えて、丁度デスクに戻ってきた。
「いえ、丸山電機の資料を確認しておこうと思いまして。食事は急いで済ませました」
「そうか、じゃあ」
「あの、確認しようと、そう思ったんですけどデータの所在がわからなくて」
情けない、そう思ったが確認することが一番の近道。主任が近づいてきて画面をのぞき込んだ。
「どれ?見せて」
主任の立ち位置が、近い。上から覆い被さるように覗き込んでいる。ああ、木蓮の香りがする。
「ああ、そう言えば、この前データ移動したな」
「ここのファイルに一緒に入ってるから」とマウスに乗せていた手の上から、手ごとマウスを掴んで動かした。主任の手に俺の手は包みこまれる形になっている。
は、何だろうこの動悸。心臓が痛い、まるで後ろから抱きしめられているみたいになっている。いやいや、後ろから抱きしめて欲しいなんて、どこをどうしたらそうなるんだろう。
カチッとファイルをクリックした後で、初めて俺の手に気がついた主任は小さく笑った。
「ああ、お前の手って小さいのな」
そう言って微笑んだ。
トクトクと自分の心音が耳の横でする。どんどん速くなっていく。緊張してるんだ俺。今日は朝からおかしい。
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