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第28話 匠

   会議を終えて少し遅くなった昼を食べようとデスクにもどると、上原がパソコンの画面を見つめて、困った顔をしている。飯まだなのか?と聞くと、ぱあっと顔が明るくなる。これ見ると撫でてやりたくなる。  上から覆い被さるようにパソコンの画面を覗き込むと、すっぽりと俺の腕の中に納まるサイズだ。このまま抱きしめてみたいと、考えながらマウスに無意識に手を置いた。  上原の手ごとマウスを握った、少し上原が小さくなった。ああ、全てが可愛い。もうそろそろ限界かもしれない。  午後からの打ち合わせ先は担当者に元気な新人さんだねよろしくと、気に入られていたようだ。あの会社は付き合いが長いし信頼も厚い。担当者は駆け引きより誠実さが大切、上原には合っている。自慢のペットのお披露目が無事済んで安心した。頑張れよとポンと頭を軽く叩くと上原は本当に嬉しそうに笑った。  今日は仕事が楽しかった、終業時間が近づくまでは。  そろそろ定時だと思うと気が重くなってきた。さっさと帰って荷物をまとめて今日はカプセルホテルへ行く、あいつと会わないように。  「今日は用事があるから悪いけど定時であがるよ」  そう言うと、課のみんなが驚いた顔をする。まあ普段の仕事の仕方からするとそう言う反応になるのもうなずける。  「じゃあ」そう言い残して急いで会社を出る。紺野の携帯は去年解約したはず、連絡の取りようがない。鍵をポストに入れて手紙をドアに貼って出かけるしかない。  いつもより早い時間帯、こんなに明るい時間にこの駅を降りるのは初めてかもしれない。  マンションに着くと、急いで部屋の向かった。玄関のドアを開けた時、心臓が止まりそうになった。そこには見慣れない靴があった。  なぜ、あり得ない。どうやって入った?鍵は別れるときに置いていった。リビングのドアを開けるとニッと笑う紺野がソファに座ってコーヒーを飲んでいた。  「こんなに早く帰ってきてくれるなんて嬉しい。部屋に他の男の影もないしね、俺の事やっぱり待っててくれたんだね」  「お前、どうやって入った」それだけいうのが精一杯だった。  次の瞬間、紺野の腕は俺の首に巻きついていた。甘えるように上目遣いで誘っている。紺野の手はすっと俺の下半身へと動いていく。俺は蛇に睨まれたカエルのように動く事さえ出来なかった。

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