29 / 336
第29話 蓮
丸山電機の担当者は部活の先輩みたいな人だった。初めて尽くしで、かなり緊張したけれど主任がそばにいるだけで何でも出来る気がした。
頑張れよと頭を撫でられた。こうやってポンってやってもらうと安心する。よくできたねと言われているみたな気持ちになる。
今日は資料をまとめるために残業しよう、そしたら主任と一緒に帰れるかもしれない。
そう思っていたら主任が定時で帰るとバタバタと出ていった、同期の女子がざわついてる。
「デートとか?まさかのお見合いとか?どうする?ショック」
隣の課の女性がうちの課の山本さんに話しかけた。そりゃそうだよな。彼女もいないみたいよと、いつも給湯室の噂だった。見てくれも良いし、仕事はできるし、ちょっと厳しいけれど思いやりがあるし。
「ねえ、主任デートなのかな?珍しいよね上原くん」
隣の席の山中さんも気にしてる、俺の事は誰も気にしないのだろう。比べるまでもないのか。
デート、余計な事を思い出した。今朝のコーヒースタンドで会った紺野さん。そうだ、主任にメールきてたけれど、まさかね。
紺野さんは男性だし、たまたま手が乗っただけ。
偶然だよな。そう言えば前に見た主任の首筋のあの薄い桜色の痕は誰がつけたんだろう。もやもやとしてきた。
確か主任は彼女と別れたって言ってた。うん?彼女って言ってたっけ?ちゃんと別れたって言ってたっけ?
「連れが出て行ってから」ってどう言う意味なんだろう。
一体何がこんなにひっかかるのだろう。まさか……考え過ぎて思考が変になっているだけだ。
「ねえ、上原くん、人の話聞いてるの?」
山中さんの声で現実に戻った。
ともだちにシェアしよう!